令和5年度(2023年度) 論文題目

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卒業論文(75件)

論文題目 指導教員
情動伝染尺度と自意識尺度の対人不安因子との関係 野村
養育態度と抑うつとの関連における完全主義傾向の媒介効果の検討 国里
反すうが悲しい気分時の音楽選択にあたえる影響 国里
大学生におけるきょうだい関係の違いがソーシャルスキルの獲得に与える影響 藤巻
スポーツ傷害受容が心的外傷後成長に与える影響 岡村
三島由紀夫についての病的な自己愛の発達過程における病跡学的考察 ~H・コフートの自己心理学と比較して~ 高田
日常場面における虚記憶: 運転場面における繰り返し効果の検討 大久保
Latent Semantic Scaling (LSS) を用いて付与した感情極性値による不満度の予測 野村
商品のレビューのテキストマイニングによる可視化と評判分析 野村
3つの特性の自他への攻撃行動に与える影響 越智
大学生の Instagram におけるストーリー機能を用いた他者情報公開への人気希求の影響の検討 古田
放課後児童クラブ等におけるバーンアウトと心理的要因に関する研究 塚本
大学生の睡眠習慣行動と生活リズム認知が心理的ストレス反応に及ぼす影響 古田
自閉スペクトラム症のある青年の行動問題への介入研究 ー行動コンサルテーションによる間接支援ー 塚本
過労死者が組織を辞められなかった要因と必要なサポートの検討 ―仕事に対しての認知及びサポートの有無の観点から― 下斗米
日本における大量殺人の加害者属性 越智
接近行動がレベル2空間的視点取得に及ぼす影響 大久保
恋愛依存が心のゆとりと攻撃性に与える影響 越智
運動同期した2Dアバターによる助言が現状維持バイアスに与える影響
”推し”を持つことの功罪 ―自己観の変容に伴う創発性― 下斗米
匿名性とサイバーアグレッションの関連性 古田
親から子どもへの援助要請行動の検討 池田
青年期における居場所の獲得がアイデンティティ形成および孤独感に与える影響 岡村
いじめ場面での仲裁行動に影響を与える要因の検討 松嶋
意識されない脅威刺激を用いた表情認知の愛着スタイル依存性 石金
公正世界信念の発現容態と生起メカニズム ―偏見や差別の理解に向けて― 下斗米
コロナ禍における大学生活の充実度が進路選択に対する自己効力感に及ぼす影響 古田
性格的類似性及び物語への没入と好きな悪役キャラクターの印象の関連 高田
親の養育態度により生じた被排除状態が非行に与える影響 松嶋
解離と主観的幸福感及びストレス反応の関連 ―解離の下位機能に着目して― 藤巻
自己愛傾向が援助要請スタイルに与える影響について 藤巻
幼児の単語学習における単語らしさとモーラ数の影響 池田
被服における人並み志向はいかに心理的安全装置になり得るか 下斗米
高校運動部の指導者のリーダーシップが生徒の自己と社会性向上に及ぼす効果 ―運動部の学校教育活動としての留意点をめぐって― 下斗米
会話成立場面における原因帰属傾向と自己効力感との関連および自己へのゆるし傾向性との関連 国里
オタク文化が青年期のアイデンティティに与える影響について 高田
援助要請スタイルと相談形態が悩みの相談利用意欲に及ぼす影響 古田
睡眠不足がラットの空間方略選択に及ぼす影響
大学生におけるスマートフォン依存症と先延ばし行動および生活習慣との関連性 岡村
複雑系としてのうつ病の症状維持と治療作用メカニズム ―ネットワークモデルを用いた数理シミュレーションによる検討ー 国里
不安・緊張場面でのスポーツパフォーマンスとイメージ明瞭度の関連 国里
インターネット上のコメント分析による性犯罪被害者への非難・偏見の検討 松嶋
面接場面前に受けるリアクション量による面接時のパフォーマンスの変化について
キャリア形成における大学生から社会人になるまでの職業認知構造の形成過程とその影響 高田
味と形はどうして結びつくのか。不快感との関わりを探る。 中沢
読書速度がモダリティ効果および冗長性効果に及ぼす影響 中沢
大学駅伝部における言葉がけが動機づけに与える影響 国里
大学生における抑うつ傾向とACTコアプロセスとの関連についての検討 塚本
解釈レベル理論を用いた「約束の日が近づくと憂うつになる現象」の説明 岡村
親子心中の犯行パターンと動機の分析 越智
暴力的ゲームにおける視点の違いが麻痺効果に及ぼす影響 大久保
ファン心理と精神的健康を指標としたファン層の検討 松嶋
社会的排斥が行動に与える影響 越智
大学生における親の養育態度が自尊感情と容姿への自己評価に与える影響について 藤巻
夢女子の恋愛観 ~そこから見る夢女子の「夢」と「現実」~ 高田
映像教材における講師の顔の有無、マスクの有無による授業内容定着度の差異 池田
突発恋愛感がデートDVに及ぼす影響 越智
青年期における完全主義と自我同一性との関連について 松嶋
失敗場面における望ましいフィードバックの仕方の検討 池田
マインドフルネスの介入による児童の運動パフォーマンス向上及びマインドフルネス特性についての検討 岡村
ストレッサーの種類によるレジリエンスの調整効果がストレス反応に与える影響 国里
嗜癖傾向が心理的自立感に与える影響についての検討 ―依存自覚と自己受容の観点から― 下斗米
連続フラッシュ抑制の空間周波数および時間周波数特性 ―脳波測定による神経基盤の推定― 石金
大学生におけるイヤホンの着用に関する探索的研究 藤巻
両親の夫婦間葛藤及び両親の夫婦関係に対する青年の主観的評価が青年の恋愛イメージに与える影響の検討 松嶋
夢内容とストレスの関連性の検討 高田
疲労と衝動性が日本人青年における時間弁別に及ぼす影響 塚本
好み評価時における事象関連電位P300の振幅に影響を与える要因 石金
ディズニーランドにおけるアトラクションの人気度を考慮した巡回経路探索システム 野村
推し活における「同担拒否」とその使用法 Twitterデータを用いたテキストマイニングによる検討 塚本
愛着スタイルが過剰適応に与える影響について 藤巻
信号検出モデルを用いた第二種課題に対する自信評定の検討 野村
他者に関するネガティブな情報の事前認知が情動帰属に与える影響 ―自閉スペクトラム傾向及び社交不安傾向との関連― 石金
バイオフィードバックが生理・認知的性的反応に与える影響の検討 大久保
少年犯罪における原因帰属、感情生起による更生支援意欲への影響 岡村

修士論文(12件)

大学生における自閉スペクトラム症に対するスティグマに仮想接触が及ぼす影響 ―接触直後と3か月後の比較―

指導教員: 塚本

要旨を読む

社会的障壁にもなり得るスティグマについてLink and Phelan(2001)は、①数多くある個人の特徴のうちからひとつだけに着目したラベル付けを行うこと、 ②ラベルと否定的な評価を結びつけること、③ラベル付けされた集団を「自分たち」とは異なる集団としてとらえること、④ラベル付けから発生する認知や感情を、 実際の差別に結び付けること、という4つの要素を含む概念であるとまとめている。このようなスティグマを低減するための方法の1つとして、仮想接触が挙げられる。 仮想接触は、外集団のメンバーと上手く相互交流できていることを想像することによって、スティグマが低減すると想定される(Crisp & Turner, 2009)。すなわち、 望ましい接触体験を想像することで、外集団に対する肯定的な感情と認識を生み出し、将来の接触への意欲、すなわち自己効力感を上げると主張している。 そのため仮想接触は、直接接触をすることの最初のステップであることが期待される(伊東,2021)。また仮想接触の効果を高めるためには、肯定的な内容を想像すること (Stathi & Crisp, 2008)、想像する人自身が想像する内容創作することが条件であること(Shamoa-Nir & Razpurker-Apfeld, 2023)が明らかになっている。

また、Shamoa-Nir & Razpurker-Apfeld(2020)は、想像する外集団の人物の特徴が明確化されている場合、外集団に対するスティグマが増加すると述べている。 そのため、見た目や障害に対する典型的な特徴が分かりにくいASDに対して、仮想接触は有効である可能性がある。

よって本研究では、身体的特徴や障害の典型的な特徴が分かりにくいASDを外集団とする仮想接触が、ASD児者に対するスティグマに変化をもたらすかどうかを目的とする。 またASD児者を外集団とする仮想接触が、ASD児者に対するスティグマにおいて3ヵ月後に効果を維持しているかどうかは不明である。 よってASDを外集団とする仮想接触の介入によって、ASD児者に対するスティグマの低減が3か月後も維持されるかどうかを検証することも目的とする。 参加者は40名だった(男性23人、女性17人)。質問紙は①ASDの知識に関する尺度(Someki et al., 2018)と、ASD児者に対するスティグマを測定するために ②ASD児者に対するスティグマ尺度(Gillespie-Lynch et al., 2015)、③ASD児者に対する集団間不安尺度(West et al., 2011)、④ASD児者に対する態度尺度 (West et al., 2011)を使用した。介入前に①、②、③、④の質問紙に回答を求めた。その後、後述する介入を実施した。介入直後に、②、③、④の質問紙に再び回答を 求めた。介入の効果が維持されているかどうかを検討するため②、③、④の質問紙に回答を求めた。実験群の介入は、ASD児者との仮想接触を行うように求めた。 まず「休日に誰かと一緒に行いたい活動」を1つ選んでもらった。次に「休日に(選択した活動)が合う人と意気投合し、2人で過ごすこと」「ASDの診断を受けていること」 などの条件に沿うように2分間想像させた。最後に想像した内容を3分間で書き出してもらった。対照群の介入は実験群と同様であったが、ASDの診断を受けていることは 伝えられず、見知らぬ人との仮想接触を行うことを求めた。

その結果、社会的距離と集団間不安において、見知らぬ人を外集団とする仮想接触を行うよりも、ASD児者を外集団とする仮想接触を行った方がASD児者に対する スティグマが減少することが明らかとなった。しかし態度においては、見知らぬ人を外集団とする仮想接触と、ASD児者を外集団とする仮想接触の間に ASD児者に対するスティグマの差は見られなかった。またすべての測度において、仮想接触によって低減したASD児者に対するスティグマは、介入から3ヵ月後には 介入前と同程度の水準まで戻ってしまうことが明らかとなった。以上のことから、効果を得るための条件を満たした仮想接触を行うことが出来れば、 典型的な特徴が分かりにくい外集団とするASD児者に対しても効果を得ることができると示唆された。

ASD児者に対する態度が肯定的に変化しなかった理由として、仮想接触は外集団と接触することへの不安といったスティグマの側面を低減するのに有効であることや、 ASD児者との過去の接触経験から強固なスティグマが形成されている可能性がある。また介入3か月後に仮想接触の効果が維持されなかった理由として、 3か月の間にASD児者と接触する機会があった可能性や、想像した内容が肯定的とは言えなかった可能性がある。以上の知見から、交流及び共同学習が広がる教育現場に おいて仮想接触は、ASD児者と直接接触することに対する不安感や抵抗感を和らげ、積極的に関わろうとする点において有効である可能性が示唆された。その際、 仮想接触だけでなくASD児者に関する障害理解教育も両立して実施することが望ましいと考えられる。


高齢者における、遂行機能と気分との関連

指導教員: 岡村

要旨を読む

考えられる。また、うつ病と関連が認められている遂行機能も脳の萎縮という器質的変化によって、低下していると報告されている。そのため、うつ病の器質的変化は、 遂行機能の特徴に現れると予想される。しかし、遂行機能は単一の機能ではなく、複数の下位要素から成り立っているため、複数の遂行機能について検討する必要がある。 これまでの研究で高齢者における遂行機能とうつ病の関連について報告されているが、これらの研究で評価される遂行機能は実験室場面で評価される遂行機能であり、 日常生活場面での遂行機能とは異なる側面を測定していた可能性が考えられる。遂行機能の障害は、日常生活場面においてその障害が顕著になるため、日常生活場面に おける遂行機能を評価する必要がある。高齢者のうつ病と日常生活場面における包括的な遂行機能の関連を明らかにすることで、若齢者とは異なる高齢者のうつ病の特徴が 明らかになるのではないかと考えた。

本研究の目的は、高齢者における、遂行機能と抑うつ気分を中心とする気分の関係について検討することである。69名の高齢者に対して、 遂行機能を評価するBRIEF-Aと気分状態を評価するPOMS2を用いて質問紙調査を行った。その結果、POMS2の「抑うつ-落ち込み」とBRIEF-Aの「抑制」「感情コントロール」 「自己モニタリング」「発動性」「BRI」「GCE」において、有意な正の相関が見られた。また、遂行機能がPOMS2の「抑うつ-落ち込み」に与える影響を検討するために、 POMS2の「抑うつ-落ち込み」を基準変数、BRIEF-Aの全ての下位尺度を説明変数とする重回帰分析を行った。その結果、BRIEF-Aの「抑制」がPOMS2の「抑うつ-落ち込み」 を説明している可能性が認められた。

以上の結果から、遂行機能の全般的な遂行機能が低下すると、抑うつ気分が高まると考えられる。また、高齢者においては、自身の行動や感情的な反応を適切に制御する 能力の低下は、抑うつ気分の上昇に繋がる可能性があると考えられる。さらに、抑制機能の低下が抑うつ気分の上昇に影響していることが示唆された。感情コントロール、 自己モニタリング、発動性が機能しない参加者ほど、抑うつ気分が高い可能性も示唆された。以上のことから、高齢者におけるうつ病の場合、遂行機能の中でも自身の行動や 感情的な反応を適切に制御する能力が低下している可能性が考えられる。特に、衝動に駆られないなどの抑制能力や適切なタイミングで自身の行動を止める能力の低下が、 高齢者のうつ病では大きく関係している可能性が示唆される。

若齢者を対象に、遂行機能と抑うつ気分を中心とする気分の関係について検討した研究との比較から、抑うつ気分と遂行機能の関係は、年齢の影響を受け、 高齢者と若齢者ではその関係が異なると考えられる。この違いの要因の1つとして、器質的な変化が影響している可能性がある。遂行機能が関与しているとされる 前頭前野は、加齢に伴う体積の変化が大きい。また、うつ病に対する脳機能画像研究から、前頭前野背外側領域と前頭前野内側領域において脳血流や糖代謝異常が 見られることが報告されており、高齢者のうつ病の場合には、前頭葉の特に抑制系の低下のような器質的な変化も生じていると考えられるため、若齢者と比較して 器質的な変化に大きな影響を受けている可能性がある。そしてこのような構造の違いが、抑うつ気分と遂行機能の関係の違いを生じさせたのではないかと考えられる。

高齢者におけるうつ病の場合、遂行機能の中でも自身の行動や感情的な反応を適切に制御する能力が低下している可能性が考えられ、特に、衝動に駆られないなどの 抑制能力や適切なタイミングで自身の行動を止める能力の低下が、高齢者のうつ病では大きく低下している可能性が示唆される。そのため、抑うつ気分が高い高齢者への 支援として、認知機能トレーニングや運動の習慣的に行うことで、抑制機能が向上し、それに伴う抑うつ気分の低下が軽減され、うつ病における 自殺予防になると考えられる。

今後の課題として、調査方法を統一することや、様々な方法で調査をする場合には、群間の比較をする必要がある。また、認知症によっても、 遂行機能は低下すると報告されているため、認知症の影響についても、考えることが必要である。そのため、認知症と定型的な加齢の違いによる遂行機能と 抑うつの関係についても検討する必要がある。


うつ病休職者に対するスティグマと組織風土の関連

指導教員: 国里

要旨を読む

問題により連続1か月以上休業した労働者がいた割合は10.6%と毎年増加しており、うつ病が職業生活に影響を及ぼしていることがわかる。厚生労働省は 「職場におけるメンタルヘルス対策・職場復帰支援の充実」として、職場におけるメンタルヘルス不調者を把握する方法や職場での支援体制の強化について検討しているが、 うつ病や休職に対してはネガティブなイメージがあることも多く、その分スティグマにさらされる可能性も高い。

これまでの研究によって、うつ病罹患者に対するスティグマとして、「危険」、「罹患者の責任」(Griffiths et al.,2006; Link et al.,1999)、「暗い」、 「心の弱さ」(樫原, 2016)といったスティグマが存在すること、うつ病罹患者に対するスティグマに影響を与える要因として、性別、年齢、学歴、 うつ病に関する知識、うつ病罹患者との接触経験が要因となっていることが明らかにされている。しかし、うつ病罹患者に対するスティグマに影響を与える要因は 、研究によって異なる結果がみられており、上述した結果がスティグマの要因になっていると断言することはできない。特に、うつ病休職者に対しては、 上述した要因だけでなく会社の要因である組織風土が関連している可能性が考えられる。実際、岩井・野中(2011)では、組織風土が精神障害者に対する 肯定的態度に影響を与えることが示されており、組織風土がスティグマの要因になる可能性が示唆されている。

そこで、本研究では、うつ病休職者に対するスティグマと組織風土の関連を検討することを目的とした。

実施は、2023年6月上旬に日本語を母語とする会社員を対象にクラウドソーシングサービスであるクラウドワークスを使用してオンライン上で行った。 質問項目は、性別、年齢、最終学歴、雇用形態、勤続年数、組織風土について、うつ病休職者に対するスティグマについて、個人のうつ病・うつ病による休職経験の有無、 家族や友人のうつ病・うつ病による休職経験の有無であった。

まず、t検定を行ったところ、個人的スティグマに比べて知覚的スティグマが有意に高いことが明らかになった。これは、個人的スティグマが知覚的スティグマを修正した ものを反映し、知覚的スティグマが世の中に蔓延しているステレオタイプ的なスティグマを反映しているためだと考えられた。次に、相関分析を行ったところ、 個人的スティグマと知覚的スティグマのそれぞれと組織風土に関連があることがわかった。そこで、さらに検討を行うため重回帰分析を行ったところ、 個人的スティグマにおいては「権威主義・責任回避」、「柔軟性・創造性・独自性」、「チームワークの阻害」が正の影響、性別が負の影響を及ぼしていることが明らかに なり、知覚的スティグマにおいては「権威主義・責任回避」が正の影響を及ぼしていることが明らかになった。これは、組織から得る社会的アイデンティティの程度が 変化することによって黒い羊効果が起こる可能性も変化し、スティグマも変化するためだと考えられた。最後に、相関分析、重回帰分析において個人的スティグマと 知覚的スティグマの両方で統計学的に有意な影響がみられた「権威主義・責任回避」において、中央値を基準に「権威主義・責任回避:高群」と 「権威主義・責任回避:低群」に分類し、心理ネットワーク分析を行った。その結果、中心となるノードが異なり、個人的スティグマにおいては「権威主義・責任回避」の 高低に関わらず、“うつ病休職者に対する認知”がスティグマの中心となっており、知覚的スティグマにおいては「権威主義・責任回避」の高低に関わらず、 “うつ病休職という問題に対する認知”がスティグマの中心となっていることがわかった。これは、個人的スティグマではうつ病休職者の問題を彼らの内的要因に求めるが、 知覚的スティグマでは会社の損失が問題、うつ病休職という問題が原因に置き換えられ、原因の帰属が変化するためだと考えられた。

本研究は質問紙調査であったため、限界があった。今後は、潜在連合テスト(Implicit Association Test: 以下IAT)といった潜在尺度の活用などさらなる工夫を行う 必要性があると考えられた。


神経ペプチドによる網膜神経節細胞への修飾作用

指導教員: 石金

要旨を読む

行われた情報を、網膜へ伝達する際に、媒介となる神経ペプチドであるとされる。FMRFamideが網膜内のドーパミン放出を調整することが報告されていることから、 網膜内ドーパミン系を介した神経修飾作用があることが考えられる。ドーパミンは、神経節細胞間の電気シナプスの伝達強度を調整し、空間受容野の大きさの制御因子で あることがよく知られている。そこで、FMRFamideが神経節細胞の受容野に与える影響を検討した。受容野の測定においては、Spike triggered Averageを適用した。

本研究では、特定の周波数帯域の空間周波数フィルターをかけた画像刺激を使用して逆相関法を行った。 STAの空間受容野というのは、ランダムピクセル (周波数が一定の刺激)を用いた場合よりも、大きく空間受容野として算出された。STC(Spike triggered covariance)を用いて、スパイクを生じさせた刺激を分類した結果、 受容野に相当する範囲の空間受容野が算出されていることが示唆された。加え、電気シナプスによって支えられているとされる時間的にミクロな時間窓での同期的頻度が、 高いペアの細胞を対象に、受容野を同図にプロットしたところ、空間受容野の遠位部で互いに受容野が重複しているペアが多く算出されたことを示し、電気シナプスが 結合したことで感度の高い受容野領域を逆相関法によって検出できている可能性を示唆した。今後は、実際の解剖学的な広がりと逆相関法によって可視化される領域との 比較を行い、今回の受容野の等高線の閾値というのが妥当な値であるかを確かめる予定である。

FMRFamideが、カエルの神経節細胞タイプである、ディミング検出器(オフ持続型細胞)の受容野の大きさに与える影響を検討した結果、投与前と投与後において、 受容野の大きさにおいて変化は見られなかった。ディミング検出器を、亜型に分類し、サブタイプ依存的な修飾作用について確認したが、タイプごとに特徴的な受容野の 変化というのは、FMRF投与前後において確認されなかった。

STAには反映されづらい受容野の何等かの性質にFMRFamideが影響を及ぼしている可能性が考えられるため、今後は、データ駆動的なアプローチでFMRFamideが 受容野の性質に与える影響を検討する予定である。


大学生の生活充実度とアパシーがゲーム依存に及ぼす影響の検討

指導教員: 松嶋

要旨を読む

ゲームは気軽な暇つぶしとして利用される(樋口, 2017)ことから, 多くの大学生がスキマ時間にゲームを使用することが想定される。樋口(2022)によると, 大学生活を充実させることがゲーム依存の予防に重要であるという。

大学生はアイデンティティの形成に向けて活動する時期であり,アイデンティティの確立に失敗すると無気力を表すアパシー状態に陥ることがある(土川,1990)。 アパシー状態になると楽しいといった快感情を感じにくくなったり,他者との対立や批判を避ける傾向がみられるため,大学生活を充実していると感じられず, 手軽な逃避先としてゲームをすることが予想される。大学生活を充実させられない心理的背景には大学生特有のアパシーが関連していると考えられ,アパシーのどの 側面が大学生活の充実度に影響し,ゲーム依存傾向を高めるのか明らかにすることを目的とする。そこで,大学生活充実度尺度短縮版(奥田・川上・坂田・佐久田,2010) の4因子(コミットメント,交友満足,学業満足,不安のなさ)の背景に多次元アパシー傾向尺度(渡部, 2021)の3因子(アンヘドニア,時間拡散,強迫的適応志向) がどのように影響し,ゲーム依存度を高めるか検証する。 ゲームをしている大学生164名に対し,ゲーム依存度,大学生活充実度短縮版,多次元アパシー傾向尺度を用いて調査した。その他に,ゲームの使用頻度, 自由時間のうち約何%をゲームに費やしているか,最もよく使用するゲーム機器について尋ね,ゲームを介した他者とのコミュニケーションの有無を「0%(全くない)」 「25%」「50%」「75%」「100%(いつもある)」の5段階で尋ね,得点が高いほど他者とのコミュニケーションが多いことを示した。また,ゲームを使用した後の 気分や状態の変化について「気分の変化」「他者とのやり取りによる変化」「時間に関すること」「変わらない」の4つから1つ選択した後,具体的な内容の記載を求めた。 回答に不備のなかった160名(男性77名,女性81名,無回答2名)を分析対象とした。まず,毎日ゲームをしている者が36%,自由に使える時間のうち半分以下をゲームに 費やしている者が約9割,スマートフォンでゲームをする者は約7割,ゲームを介したコミュニケーションを全く取らない者は約半数だった。また,ゲームをした後の状態 として,気分がポジティブに変化した者が約半数で,他者とやり取りすることでネガティブに変化した者はいなかった。次に各尺度の因子分析を行ったところ, 大学生活充実度短縮版は「コミットメント」「学業満足」「交友満足」「不安のなさ」「孤立感」の5因子が抽出され,多次元アパシー傾向尺度は「時間拡散」 「意欲的」「対立回避」「無感動」の4因子が抽出された。なお,性別によるゲーム依存度に差はみられなかった。アパシーが大学生活充実度に影響し, 大学生活充実度がゲーム依存度に影響を与えるという仮説を検証するため,共分散構造分析によるパス解析を行った。仮説モデルの適合度が悪かったため, 係数が有意でないパスを削除し,適合度の確認することを繰り返した。最終的にGFI=.983,AGFI=.949,RMSEA=.037,CFI=.992,χ2(7)=8.50, p=.291と十分な 適合度を示したモデルが得られた。「時間拡散」がゲーム依存度に直接正の影響を与える可能性,「無感動」が「孤立感」を高め,ゲーム依存度に正の影響を与える 可能性,「対立回避」の低さが「コミュニケーション」を高め,ゲーム依存度に正の影響を与える可能性が示唆された。

以上のことから,大学生活が充実していることはゲーム依存の予防になるとは言えない結果となった。大学生は将来に対する不安が高いと学生生活に目的を持たず 何となく過ごすことにつながり,手軽な逃避先としてゲームをしている可能性がある。また,楽しいといった快感情を感じにくいことが友人の中にいても孤立している 感覚になり,手軽な逃避先としてゲームを選択していることが推測される。そして,他者との対立や批判を避ける傾向が低いとゲーム内で他者とコミュニケーションを とることが増え,他者とのコミュニケーションを楽しいと感じることでゲーム依存度を高めることが推測された。本研究では,アパシーが大学生活で充実していると 感じる前に心理的要因として存在していると仮定したが,大学に目的意識を持って入学したものの,しばらくしてから想像していた学生生活と異なることを知った場合は, アパシーが結果として生じる可能性もある。そのため,大学生特有のアパシーといっても,大学に入学してすぐにアパシーになるとは限らず,時間的に先行しているとは 言い切れない可能性がある。


仕事における人生の意味に関する検討 ―労働衛生の向上に向けて―

指導教員: 下斗米

要旨を読む

仕事における人生の意味が心理的健康や幸福感に影響を及ぼすため(Steger et al., 2006),仕事を通じてどのように人生の意味を探求し理解し, それが何をもたらすのかを検討することが必要であると考えられる。

離職意思とプロアクティブ行動は職場と自己の距離を反映する2側面である。離職意思を抑制し,プロアクティブ行動を促進することは, 組織と個人にとって有益である。離職意思を抑制し,プロアクティブ行動を促進するためには,仕事における人生の意味の理解と探求が必要である。 また,この理解と探求には仕事に対する自分の関係性のあり様が大切であり,仕事に対する自分の関係性のあり様は仕事への現状評価に基づいている。

従来の研究では,仕事への現状評価が職場と自己の距離へ与える影響に焦点を当ててきたが,それらの研究の視点は仕事の範囲に限定されていた。 本研究では,仕事と生活が密接に関連しているという観点から,仕事に対する自分の関係性のあり様と仕事における人生の意味を考慮することで, 職場と自己の距離における心理過程という4水準モデルの検討を行った。この心理過程の中で仕事における人生の意味がどのように機能しているかを探索的に検討することを 目的とした。

中国広東省で働く労働者202名を対象として,2023年5月~9月にWebでQualtricsを用いた調査を実施した。そして,有効回答者165名(フリーター37名を除外した)の データを用いて分析を行った。平均年齢は35.55 (SD = 10.78)であった。性別の内訳は男性73名,女性78名,回答拒否14名であった。確認的因子分析によって, 仕事への現状評価は「職務内容への評価」と「職場の関係資本への評価」の2因子構造が確認され,仕事に対する自分の関係性のあり様は「仕事と生活の切り離し」と 「仕事と自分の一体化」であることが確認された。

共分散構造分析の結果から,離職・転職意思について,職務内容への高い評価が,仕事と自分の一体化を促進し,人生の意味への理解を深めることで, 離職・転職意思を抑制することが示された。また,職場の関係資本への高い評価が,仕事と生活の切り離しを抑制し,離職・転職意思を低減することも示された。 さらに,職務内容への高い評価は仕事と自分の一体化を促進し,プロアクティブ行動を促進することが示された。その一方で,意味探求が高いほど, プロアクティブ行動は阻害されることが示された。意味理解はプロアクティブ行動に有意な影響を与えないことも見出された。

以上のことから,仕事への現状評価と職場と自己の距離の間に最も注意すべきことは仕事に対する自分の関係性のあり様であることが明らかになった。一方, 仕事における人生の意味はプロアクティブ行動を阻害する可能性があるが,離職・転職意思を抑制することができるため,仕事外の領域においてより良好な結果を もたらす可能性が考えられる。

以上のように,組織と個人が異なる立場に立っている点を踏まえ,以下の提案があげられる。組織の立場からは,組織が職務内容と職場の関係資本を変更することで, 仕事と従業員の関係性をより深めさせる。これにより,従業員は積極的に働き続けるようになり,組織から離れることも防ぐことができると考えられる。次に, 個人の立場からは,仕事への現状評価が低く,個人と仕事がお金を稼ぐためだけの表面的な関係をつながり,人生の意味を見出せない場合は,適切な時期に離職や転職し, 自分の能力を活かせ,働きやすい環境の組織を探す必要があると考えられる。また,仕事を通じて人生の意味を見つけたい場合でも,自分の職務に専念し, 過剰なプロアクティブ行動を避けることが,心理的負担を軽減し,心理的健康を維持するために重要な選択であろう。

本研究の結果は,労働衛生において組織と個人に重要な示唆を与えるものであった。臨床現場においても,仕事における人生の意味を見出し難く, どのように行動すべきかに苦悩している人々を支援する上で本研究の知見は有用であると考えられる。今後の研究では,モデルの精緻化と代表性のあるサンプルの収集, そして異なる地域,組織,年齢層などにおいて,本研究で得た知見の汎用性を高めることを目指す。また,実験または縦断的研究を通じて,職場と自己の距離における 心理過程をより詳細に検討できることを期待している。

引用文献

Steger, M. F., Frazier, P., Oishi, S., & Kaler, M. (2006). The meaning in life questionnaire: assessing the presence of and search for meaning in life. Journal of Counseling Psychology, 53(1), 80. https://doi.org/10.1037/0022-0167.53.1.80 Wang, Z., Li, K., Zheng, G., Zhang, X., Liu, W., Huang, H., & Hou, Q. (2019). Inheritance and development of occupational health in China. Occupational Health and Emergency Rescue, 37(2), 101-106. https://doi.org/10.16369/j.oher.issn.1007-1326.2019. 02.001


第二の分離個体化の達成と大学生の適応感との関連 ―居住形態と養育態度による影響の観点から―

指導教員: 高田

要旨を読む

母親から離れて独立しようという欲求と、いつまでも母親に依存していたいという欲求との葛藤は思春期・青年期にも認められるものであるという指摘がある。 青年期になると、子どもは家族以外に愛情対象を見つけ、自立の道を歩む。青年期は親からの心理的、経済的な分離・自立の段階であると考えられており、 Blos,Pは青年期を第二の分離個体化の時期としている。

先行研究によると、青年期における両親からの受容的な関わりと一体感のある家庭環境の中で第二の分離個体化が達成されているほど、不安が低く 情緒的に安定していることが報告されている。しかし、1990年代前半より、青年期における親密な友人関係の構築を避ける傾向や、特に女性で母娘間の心理的距離が近い 「一卵性双生児現象」などが指摘されており、親密な友人関係を構築する中で進展する分離個体化へのネガティブな影響が推測されるが、現代青年の分離個体化に 着目した研究の蓄積はいまだ充分とは言えないという指摘もある。

以上を踏まえ本研究は、大学生178名を対象に、次の3つの目的について研究した。1点目は、第二の分離個体化と大学生活における適応感との関連を検討すること であった。2点目は、第二の分離個体化と両親の養育態度との関連を検討することであった。3点目は、居住形態が第二の分離個体化に与える影響について検討すること であった。また、大学生は依存と自立の間で葛藤する時期に差し掛かっており、様々な不安を抱えている可能性があるため、その時期に有効な心理的支援についても 検討した。

まず、大学生の適応感の違いという側面から、第二の分離個体化について検討するために、大学生用適応感尺度の4因子の得点によってクラスターを作成した。 クラスターはK-Means法による非階層式クラスター分析によって求めた。いくつのクラスターが適切なのかを考えるために、4、5、6のクラスター数を 指定してそれぞれクラスターを作成し、その結果を比較した。本研究では解釈可能性の観点からクラスター数5を採用し、それぞれ【適応型(対人面・環境面)】、 【適応型(対人面)】、【無自覚型】、【不適応型(対人面・環境面)】、【安定型(対人面・環境面)】と命名した。

その後、クラスターを要因として、分離個体化尺度の6因子それぞれについて1要因6水準の分散分析を行ったところ、「友人関係の未確立」、「両親からの分離欲求」、 「自惚れ」において有意な群間差が見られた。「友人関係の未確立」においては、【安定型(対人面・環境面)】の得点が5クラスターの中で最も低く、 【不適応型(対人面・環境面)】の得点が最も高いという結果となった。「両親からの分離欲求」においては、【安定型(対人面・環境面)】の得点が5クラスターの 中で最も低く、【無自覚型】の得点が最も高いという結果となった。「自惚れ」においては、【無自覚型】の得点が5クラスターの中で最も低く、 【適応型(対人面・環境面)】の得点が最も高いという結果となった。

次に、両親の養育態度の違いという側面から、第二の分離個体化について検討するために、青年期養育尺度の6因子の得点によって、クラスターを作成した。 クラスターはK-Means法による非階層式クラスター分析によって求めた。いくつのクラスターが適切なのかを考えるために、4、5、6のクラスター数を指定して それぞれクラスターを作成し、その結果を比較した。本研究では解釈可能性の観点からクラスター数6を採用し、【均衡的親型】、【放任主義的親型】、 【関心の薄い父親型】、【受容的な親型】、【過保護的母親型】、【寛容的親型】と命名した。その後、クラスターを要因として、分離個体化尺度の6因子それぞれに ついて1要因6水準の分散分析を行ったところ、「両親からの分離欲求」、「自惚れ」、「両親との親密さ欲求」において有意な群間差が見られた。「両親からの分離欲求」 においては、【過保護的母親型】の得点が6クラスターの中で最も低く、【放任主義的親型】の得点が6クラスターの中で最も高いという結果となった。 「自惚れ」においては【関心の薄い父親型】の得点が6クラスターの中で最も低く、【均衡的親型】の得点が最も高いという結果が得られた。「両親との親密さ欲求」 においては、【均衡的親型】の得点が6クラスターの中で最も高く、【放任主義的親型】が最も低いという結果が得られた。

次に、居住形態の違いで第二の分離個体化の得点に差が見られるのかを検討するため、分離個体化尺度のそれぞれの因子の得点について対応のないt検定を行った。 その結果、全ての因子で有意な差は見られなかった。


援助要請スタイルの時間的変化とその関連要因についての検討

指導教員: 高田

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援助要請の促進要因・抑制要因とされている,知覚されたソーシャルサポート,抑うつ,援助要請へのセルフスティグマ,悩み,援助要請へのポジティブな結果の予期, 性別を取り上げた。

なお,本調査では回答に伴う負担,混乱を軽減する配慮として,尺度を全て5件法で使用した。援助要請スタイル,ソーシャルサポート, 抑うつを測定する質問紙は5件法でなかったため,これらの質問紙を5件法で使用しても信頼性が保たれるかを確認する予備調査を2022年12月に実施した。 予備調査では,55名(男性19名,女性35名)の有効回答が得られ,各尺度の信頼性に問題がないことを確認した(α=.85~.95)。

本調査は2023年4月(以下,Ime1)と同年7月(以下,Time2)に行い,最終的に150名(男性62名,女性88名)の有効回答が得られた。

分析ではまず,Time1,Time2における各尺度の記述統計およびα係数を算出した。その結果,全ての尺度において一定のα係数が示された(.74~.95)。

次に,分析対象者を援助要請スタイル毎に分類するために,Time1,Time2のそれぞれの各援助要請スタイルの標準化得点を基準に,クラスター数を3に設定した 非階層クラスター分析(K-means法)を行い,それぞれの援助要請スタイルの標準化得点が正の値を示した過剰群Ⅰ(n=76),回避群Ⅰ(n=35),自立群Ⅰ(n=39) が得られたTime2においても同様に,過剰群Ⅱ(n=81),回避群Ⅱ(n=30),自立型Ⅱ(n=39)が得られた。Time1,Time2において,分析対象者の約半数が過剰群に 分類されたり,自立群において,自立型の標準化得点の高さよりも,過剰型の標準化得点の低さの方が際立っていたりと,共通点が多く見られた。

次に,Time1とTime2における援助要請スタイルのクラスター分析の結果を下に,分析対象者を9分類し,人数の偏りがあるかを確認するために,χ²検定を行った。 その結果,過剰群Ⅰにおける自立移行群,自立群Ⅰにおける回避移行群を除く全ての分類結果について,有意な人数の偏りが示された(χ²(4)=59.66,p<.001)。 残差分析の結果,過剰群Ⅰにおける過剰維持群の割合が有意に高く,回避移行群,自立移行群の割合が有意に低いことが示された(それぞれ,p<.001;p<.01;p<.001)。 また,回避群Ⅰにおける過剰移行群の割合が有意に低く,回避維持群の割合が有意に高いことが示された(それぞれ,p<.05;p<.001)。同様に,自立群Ⅰにおける 過剰移行群の割合が有意に低く,自立維持群の割合が有意に高いことが示された(ps<.001)。

更に,こうした援助要請スタイルの変化に,関連要因がどのように影響しているのかを検討するために,多項ロジスティック回帰分析を行った。その結果, 回避群Ⅰにおける自立移行群に分類された者には,回避維持群と比較して,評価的サポートおよび抑うつが有意な負の影響を与えていることが示された (それぞれ,β=-6.06,p<.05;β=-9.11)。同様に,自立群Ⅰにおける過剰移行群に分類された者には,自立維持群と比較して,ポジティブな結果の予期が有意な 正の影響を与えていることが示された(β=2.37,p<.05)。

以上の結果から,前期課程における大学新入生の援助要請スタイルは比較的安定しており,学生相談で大学新入生を支援する際は,個人の援助要請スタイルに応じた 一貫した支援の重要性が示唆された。また,大学生全体を対象とした先行研究とは,援助要請スタイルの分類結果の傾向が異なっており,大学生の援助要請スタイルを 分類する際,学年に留意することの必要性が示唆された。

更に,先行研究では,援助要請において,抑うつが抑制要因であり,ポジティブな結果の予期が促進要因であるとされており,本研究において, 回避群から自立群への変化に,抑うつの低下が負の影響を与えていた点や,自立群から過剰群への変化に,ポジティブな結果の予期が有意な正の影響を与えていた点は, 先行研究を支持するものであった。一方,回避群から自立群への変化に,評価的サポートの低下も抑うつと同様の影響を与えていた点については,ソーシャルサポートを 援助要請の促進要因とする先行研究を支持しなかった。そのため,同じソーシャルサポートであっても,これがどのように機能するかは,個人の援助要請スタイルによって 異なる可能性が示唆され,学生相談に回避型の大学新入生が来た際は,その者にとっての援助要請の促進要因を見極め,そこに焦点を当てる関わりが重要であると 考えられた。


加害者の生い立ち情報が加害者非難に与える影響についての検討 ―公正推論の観点から―

指導教員: 松嶋

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公正世界信念(Belief in Just World: Lerner, 1980)とは,世界は公正で安全な場所であり,人はその人が手にするに値するものを手にしている,と考える信念の ことである(Lerner, 1980)。この信念が維持されることによって,世界は安定して秩序のある環境なのだという認識が私たちに提供される。そしてその認識が, 心理的なバランスや,長期目標および幸福感を維持するための基盤になると考えられている(Dalbert, 2001;Hafer & Begue, 2005)。 一方で,公正世界信念によって生じる問題もある。それは,公正な世界を信じるあまり,現実の不公正を無視したり,歪んで解釈してしまったりすることである。 公正世界信念を維持するために用いられるこのような解釈や理由づけのことを,公正推論(justice reasoning)と呼ぶ(Murayama, Miura, & Furutani, 2021)。 公正推論には,公正世界信念の下位概念(内在的公正世界信念および究極的公正世界信念)に基づいた内在的公正推論(immanent justice reasoning)と究極的公正推論 (ultimate justice reasoning)がある。Murayama, Miura, & Furutani(2021)によれば,内在的公正推論は,論理的にも物理的にも成り立たないのに, ある対象にとっての結果(通常は不幸)とその人の過去の悪行との間に因果関係があると認識することを指す。また,究極的公正推論は,現在耐えている 不公平が将来のある時点で是正されると考えることを指す。 これまでの先行研究において,道徳的価値が低い(いわゆる悪人)とみなされる者に対しては内在的公正推論が,道徳的価値が高い(いわゆる善人)とみなされる 者に対しては究極的公正推論が行われやすいことがわかっている(Callan et al., 2006;Callan, Ferguson, & Bindemann, 2013)。すなわち,悪人に対しては当人の 過去に不公正の責任が帰属され,善人に対しては不公正に対する将来的な補償が期待される。では,悪人は悪人であっても,自分の意思でそのようになったわけではない 人物,例えば,犯罪加害者が過去に不公正な境遇に置かれているなど,被害者的な側面を持っていた場合はどちらの推論が選好されるのだろうか。 Gill & Cerce(2017)は,加害者自身が過去に虐待を受けたという生い立ち情報が,その加害者に対する非難(Blame)を緩和する影響を与えることを示している。そして, そのような関係を媒介するのは,加害者は自らが望んでそのような人物になることを選べたかどうかという,自己形成の統制可能性(control of self-formation) であることが示された。自己形成の統制可能性が低く見積もられることによって,人々は加害者への非難を減じていた。 Gill & Cerce(2017)の研究で示された心理過程には,公正推論が関係している可能性が考えられる。なぜなら,そのような人物になることを自分で選べなかったという 事態は,社会適応的な人物になるための教育を受けるという公正な機会の剥奪として捉えることができるからである。公正な機会が剥奪された事態を認識した人々は, 自身の公正世界信念が脅かされる脅威を避けるために,公正推論を用いる可能性が考えられる。すなわち,虐待によって本来享受しうる公正な機会を得られなかった人が いるという不公正な事態に対して脅威を感じ,どうにかしてその現実に理由づけを行おうと試みると考えられる。その結果として,加害者に対する非難の減少が生じている 可能性があるのではないだろうか。 本研究では,仮説として,社会適応的な自己形成のために必要な機会が公正に与えられず,不適応的な人物にならざるを得なかったという認識が,究極的公正推論の選好 を経て加害者非難を減じると考えた。これは,究極的公正推論を選好し,加害者が将来的にいつか補償されることを期待することによって,加害者に対して非難や罰を 加える(すなわち積極的に働きかける)必要が減じると考えるためである。 結果として,不遇な生い立ち情報が付与されることによって,加害者は不適応的な人物にならざるを得なかったと認識される,すなわち自己形成の統制可能性が低く 見積もられることが確認されたが,その認識が必ずしも究極的公正推論の選好および加害者に対する非難の軽減に繋がらないことが示された。その要因としては, 自分の意思で選択することによって自分が形作られるという意識が(欧米人ほどは)強くはない日本人の価値観が影響している可能性が考えられた。すなわち, 自分の意思で選択する機会を剥奪されていると認識されたとしても,そのことが加害者非難を減じるほどの理由にはならないとみなされる可能性や, 公正推論に影響を与えるほどの不公正事態とは認識されない可能性が考えられた。


反すうの数理シミュレーション

指導教員: 国里

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反すうの根底にあるメカニズムを理解することは、効果的な治療を行う上で重要である。これまで、質問紙法や実験、経験サンプリング法による測定によって反すうに 関する経験的なデータが得られてきた。しかし、反すうの認知過程は複雑である。本研究では、複雑な認知過程をモデル化して反すうを理解するために、 シミュレーションを行う。シミュレーションを通して、従来の研究手法では捉えることが困難であった反すうの微妙な側面に焦点を当てる。

本研究では、反すうの機能を理解するためにBedder et al.(2023)のPOMDPモデルにエージェントの内部への変更を加えてシミュレーションを行った。

ネガティブバイアスの影響を検討するため、エージェントの内部に否定的な結果を過大評価するようなネガティブバイアスを導入してシミュレーション1を行った結果、 R(A_1|X_2)にネガティブバイアスを加えた条件1では、ネガティブバイアスが増加しても反すうへの影響は見られなかった。一方、R(A_2|X_1)にネガティブバイアスを加えた 条件2では、ネガティブバイアスが増加すると反すうも増加した。R(A_1|X_2)とR(A_2|X_1)の両方にネガティブバイアスを加えた条件3においても、ネガティブバイアスが 増加すると反すうも増加した。次に、抽象的な処理スタイルの影響を検討するためシミュレーション2を行った結果、環境の分布の精度が低下する程反すうは増加し、 推測の分布の精度が低下する程反すうは増加した。また、各シミュレーションにおいてサンプリングコストの大きさの違いを検討した結果、概ねサンプリングコストが小さい 程反すうが増加するという、Bedder et al.(2023)と同様の結果となった。

結果から、ネガティブバイアスと抽象的な処理スタイルという要因が、反すうの増加に寄与すると考えられる。シミュレーション1においては、 R(A_1|X_2)にネガティブバイアスを加えた条件1とR(A_2|X_1)にネガティブバイアスを加えた条件2で、反すうへの影響に違いが見られた。これは、 エージェントが“X_2が真である”という設定の下に方略を学習するためだと考えられる。ネガティブバイアスが反すうを増加させる要因としては、 否定的な結果の回避が考えられる。抽象的な処理スタイルが反すうを増加させる要因としては、環境と推測のズレによる曖昧さや不確実性の回避が考えられる。 本研究の結果は先行研究の知見と一致するものであり、POMDPモデルが反すうの認知過程を表しているのではないかと思われる。また、エージェントの推測が 具体的であるほど反すうが減少したという結果は、RFCBTの介入方法を裏付けることができたと考えられる。


複雑な感情に対する一致性効果:愛国心を用いた検討

指導教員: 大久保

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私たちの感情状態に合った刺激が認知過程を促進することである(Konieczny, 2008)。ポジティブな情報はポジティブな気分で優先的に処理され、 ネガティブな情報はネガティブな気分で優先的に処理される。この効果は記憶、注意、判断の過程にも影響を及す。気分と一致する情報は、 より簡単に符号化され、検索される。気分は長期記憶の中でネットワーク構造として表現され、一致した経験を活性化する。 音楽は感情状態に効果的に影響を与え、気分を変調させることができるため(Adolph's, 2006; Gomez & Danseur, 2007)、音楽は気分一致効果を研究するための 貴重なツールとして使われてきた。TalmineとZenner (2022)は、音楽が複雑な感情(例えば、)を誘発し、最終的に複雑な感情の気分一致効果を生み出す ことを発見した。つまり、悲しみや幸福といった単純な気分を超える効果を発見した。 TalmineとZenner (2022)の研究は、愛国感情のような他の複雑な感情にも同様の効果がある可能性を示唆している。愛国感情は自己アイデンティティの 一部として認識されており、自国に対するポジティブな感情や忠誠心を含んでいる(Blank&Schmidt,2003)。本研究では、没入型音楽が複雑な感情、 特に愛国感情を誘発による気分の一致効果について検討する。本研究では、音楽を通じて愛国的感情が引き出され、一致した情報処理が促進され、その結果、 気分的に一致した愛国的項目が記憶上で改善されるという仮説を立てた。この仮説の検討を行う 本研究では、感情ネットワークモデル理論に基づき、記憶と感情の関係を検討した。実験は予備実験、実験1、実験2に分かれ、予備実験では先行研究により 中国人向けの愛国感情質問票を用い、実験1と実験2で使用する刺激を選定した。実験1では、70人の参加者が参加した。実験では、50枚の愛国的な写真と50枚の 中立的な写真が用意され、参加者は愛国音楽を聴取し愛国感情を経験するグループと、中立音楽を聴衆し中立を経験するグループに分かれた。各グループは25枚の 愛国的な写真と25枚の非愛国的な写真を見た後、記憶再認テストを受けた。その結果、愛国的な音楽に接した参加者は、感情的に中立であった参加者よりも、 愛国刺激に関する再認テストの成績が促進した。実験2では、40人非中国人参加者を揃え、実験1と同様の方法で行った。その結果、愛国的感情に伴う気分一致効果は 生じなかった。実験1の結果は、「複雑な感情である愛国感情が音楽によって生じ、一致性の効果情報処理を促進する」という仮説を支持した。そして、実験2では、 中国の愛国音楽によって愛国感情が喚起されないであろう日本人を検討した。実験2では愛国音楽による一致性効果は観察されず、愛国音楽の音楽的特徴そのものによって、 実験1の一致性効果が生じたわけではないことが示された。実験2で一致性効果が観察されなかったことは、実験1の結果が、愛情音楽による一致性効果に よって生じていたことを示すものである。


バーチャル・ペットとの相互作用が精神的健康とオキシトシンの分泌に与える影響

指導教員: 下斗米

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人にとっての伴侶動物であるコンパニオン・アニマルは、飼い主や初対面の人に対して、精神的健康の向上や幸福感を反映するホルモンであるオキシトシンの分泌、 他者とのコミュニケーションの促進などの様々なポジティブな効果をもたらすことが明らかにされている。さらに、ネガティブ気分や心拍数の減少といった効果は、 コンパニオン・アニマルを撫でるといった相互作用がなく、コンパニオン・アニマルの動画を見たり、同じ空間に存在しているだけでも生じることがわかっている。 しかしながら、コンパニオン・アニマルの飼育には、経済的負担、飼育場所や旅行の制限など様々なデメリットも伴う。そこで、本研究では、 ゲームという仮想空間上でのペット、すなわちバーチャル・ペットとの触れ合いに焦点を当てる。これまでの研究では、バーチャル・ペットのゲームをプレイすることに より、緊張や不安の減少、心拍変動の低下といった癒し効果が得られることが明らかにされている。しかしながら、バーチャル・ペットがコンパニオン・アニマルと 同様にオキシトシンなどの内分泌系に影響を及ぼすのか、さらにはバーチャル・ペットのポジティブな効果は相互作用がなくても得られるのかといったことは わかっていない。そこで、本研究では、バーチャル・ペットとの短時間の触れ合いにより、精神的健康の向上と唾液中オキシトシン濃度の増加がみられるか、 そしてそのような効果を得るためにバーチャル・ペットとの相互作用が必要かどうかを検討した。

条件として、Nintendo Switchを用いて子犬の育成シミュレーションゲームのLITTLE FRIENDS-DOGS & CATS-をプレイ(相互作用あり/LF条件)、LITTLE FRIENDS-DOGS & CATS-のプレイ動画を視聴(相互作用なし/動画条件)、パズルゲームのテトリスをプレイ(バーチャル・ペットとの触れ合いなし/テトリス条件)の3つを設定した。また、 精神的健康の指標として、気分(ポジティブ/ネガティブ)、状態不安、孤独感、信頼感(一般的信頼/用心深さ)を用いた。コンパニオン・アニマルとの短時間の触れ合いで 変化することが示されている気分、状態不安、唾液中オキシトシン濃度は、相互作用が必要な場合はLF条件のみで変化、すなわちポジティブ気分と唾液中オキシトシン濃度が 増加、ネガティブ気分と状態不安が減少し、動画条件とテトリス条件では変化しないと予測された。一方で、相互作用が必要でない場合はLF条件と動画条件で同様の変化が 生じ、テトリス条件のみ変化しないと予測された。また、コンパニオン・アニマルとの長期的な触れ合いによって変化することが示されている孤独感と信頼感は、全条件に おいて変化せず、条件間で変化量に差がみられないと予測された。

大学生90名(各条件30名)に約20分間、実験室内の大型テレビ上で個別に各条件の課題を実施してもらい、その前後での各指標の変化量を条件間で比較した。その結果、 ネガティブ気分は予測通り、LF条件と動画条件の方が、テトリス条件に比べて減少量が大きいことが明らかになった。一方で、ポジティブ気分は予測と異なり、 課題の楽しさの影響を統制すると、テトリス条件の方がLF条件と動画条件より増加量が大きかった。また、状態不安についても課題の楽しさの影響を統制したところ、 予測と異なり全条件において減少し、動画条件の方がテトリス条件より減少量が大きかった。孤独感と信頼感は予測通り、全条件においてほぼ変化せず、 条件間で差はみられなかった。また、唾液中オキシトシン濃度は予測と異なり、全条件において一貫した変化はみられず、LF条件のみ唾液中オキシトシン濃度の変化量と 孤独感の変化量に正の相関がみられた。

以上の結果から、バーチャル・ペットとの触れ合いによってネガティブ気分や状態不安の減少などの精神的健康の向上効果を得るためには、相互作用は必要ないが、 オキシトシンの分泌に対しては相互作用の有無に関わらずバーチャル・ペットが効果をもたないことが明らかになった。このような結果が得られた理由として、 バーチャル・ペットがもつベビースキーマという見た目の特徴が参加者の注意を引いた可能性が考えられた。また、本研究の結果から、コンパニオン・アニマルとの 触れ合いによってオキシトシンを分泌させるためには、触覚や視線による相互作用を通したコンパニオン・アニマルとの親密な関係の形成が必要であることが示唆された。 今後は、参加者の年齢層を広げた上でバーチャル・ペットの長期的な効果の検討が期待される。


博士論文(1件)

視線を介した社会的信号の促進効果と抑制効果

指導教員: 大久保

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時間特性の相違点である復帰抑制に着目し検討を試みた。輝度変化といった突発的な知覚的変化である周辺手がかりと視線手がかりはどちらも自動的に注意の移動を 引き起こす(Frischen et al., 2007; Posner, 1980; 小山・大久保, 2022)。しかし,両者ともに自動的な注意の移動を引き起こすものの,周辺手がかりで生ずる 復帰抑制が視線手がかりでは生じない(Friesen & Kingstone, 1998),あるいは極めて限られた条件下でしか生じないことが報告されている(Frischen et al., 2007)。 周辺手がかりや視線手がかりによる自動的な注意の移動とそれに伴う復帰抑制の検討がなされてきた中で,Okubo et al. (2005)は内発的注意の時間特性に着目し, 内発的注意の手がかりは復帰促進が生ずることを報告した。Okuboらは内発的注意の手がかりはターゲット位置を予測させるもので,意図があって向けられる。そのため, 注意が強制的に取り消されたとしても,再度元の位置に注意を戻す方が課題には有効である。手がかりが消失し,注意が取り消されたとしても再度手がかり位置に注意を 戻す方が効率的なためであると説明した。ヒトは関心のある事物に集中的に視線を向ける(Yarbus, 1967)。他者の見ている方向,注意を向けている対象を理解することは, 社会的なコミュニケーションにおいて有益な手がかりとなるため集団生活を営むという点では適応的である。そのような社会的信号をやり取りするために,ヒトの眼の 解剖学的な構造は進化し,社会的なコミュニケーションに寄与していることが示されている(Emery, 2000; Kobayashi & Kohshima, 1997)。以上のことから視線は意図を 持って向けられるため,一度視線手がかりによって移動した注意が取り消されたとしてもその情報は意味を持ち続け,内発的な注意と同様に復帰促進が生ずると考えた。 そこで,研究1では,注意手がかり課題において,視線手がかりが復帰促進を引き起こすかどうかを検討した。具体的には,手がかりを提示した後,中央手がかりを 提示することで注意を取り消す操作を行い,視線手がかりと周辺手がかりを比較した。

実験の結果は3つの解釈を可能にした。1つ目の解釈は視線による注意の移動は新たな場所に注意が引きつけられることに抵抗し,視線方向側に注意が停留する。 2つ目は視線方向側に注意が停留するが,その他の位置にも注意が向けられる。つまり,2つに注意が分割される。3つ目は2つの位置に注意が分割され, そのうちの一つの注意は再度視線方向側に注意が戻る。すなわち,復帰促進が生ずることが示唆された。持続的,あるいは再発的であるという相違はあるものの, いずれの解釈においても,比較的長い時間視線方向側に注意が向くことは他の手がかりにはない視線のみが有する時間特性である(Friesen & Kingstone, 1998; Friesen et al., 2004)。たとえ実験操作として意図のある手がかりでなくとも観察者は視線刺激の意図を推論してしまうことを反映している可能性がある。

研究2では視線と矢印の相違点である空間ストループ効果に着目し,検討を試みた。視線および矢印はどちらも観察者の注意を誘導し(Tipples, 2002), 手がかり効果を引き起こす。また,両者の手がかり効果は比較的長いSOAにおいても生起し,長時間持続する(Chacón-Candia et al., 2023; Ristic & Kingstone, 2012)。 これらのことから視線と矢印は共通した注意メカニズムを有すると考えられている一方,異なる結果を示す研究もある(Bayliss et al., 2010; Dodd et al., 2012)。 そのため,視線と矢印はどちらも観察者の視空間的注意に影響を与えるものの,部分的な質的差異があると考えられている。近年視線と矢印の質的差異を示した手続きと して空間ストループ課題がある。矢印ではその向きと位置が不一致の場合,干渉効果が生ずる,すなわち空間ストループ効果が生ずる。それに対して, 視線刺激を標的刺激とすると,反応時間は逆転する。すなわち,不一致条件の方が反応時間が早くなる。これは視線による逆ストループ効果と呼ばれ,アイコンタクト説, 共同注意説,注意転導説,二段階仮説によって説明されてきた。しかしながら,いずれの説明も未検証の前提がある。アイコンタクト説と共同注意説は不一致条件で 反応が早くなる促進効果を,二段階仮説では一致条件で反応が遅くなる抑制効果を,注意転導説では促進効果と抑制効果の2つを前提としている。しかしながら, 先行研究で行われた実験はいずれも中立条件がなく,視線による逆ストループ効果が促進効果なのか,抑制効果なのかは未検証であり,それぞれの説明の妥当性を 評価することは困難であった。そこで,研究2では中立条件を組み込んだ空間ストループ課題を行い,視線逆ストループ効果が促進効果か抑制効果かを検討することを 目的とした。具体的には,直視,上向き,下向き刺激を中立条件とし,口頭反応による測定を行った。実験の結果は,一致条件による抑制効果を示し, 二段階仮説を支持する結果となった。二段階仮説のターゲット-背景分離プロセスでは顔の知覚的複雑さによって視線方向の抽出が遅れ,干渉効果が減弱することを 想定している。しかしながら,視線逆ストループ効果は表情(Jones, 2015)や個人差(Ishikawa et al., 2021)によって変調することが報告されており, 視線が持つ意図性など(Marotta et al., 2018)によって,より緻密な探索が行われることで,方向の抽出が遅れている可能性を示している。本研究は二段階仮説の さらなる拡張を意義づけるものである。

研究1,2の結果から本稿では,様々な刺激に共通する注意システムに対して視線が持つ意図性が促進および抑制効果に寄与すると考えられる。 そしてこの寄与は時間的変調から浮き彫りになる。注意手がかり課題ではSOA,空間ストループ課題では全体的な反応時間の遅延が反映している。 このような情報処理の説明は視線が持つ特異性を明らかにし,その役割を示唆するものである。