令和7年度(2025年度) 論文題目

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卒業論文(78件)

論文題目 指導教員
SNSにおける比較、醜形恐怖、完全主義との関連 国里
性格特性(神経症傾向、誠実性)が睡眠引き伸ばし行動に与える影響 ー日本人大学生を対象にしてー 大久保
知的好奇心特性とメタ認知特性の関連性の検討 池田
セルフ・ハンディキャッピングに過敏型自己愛傾向が与える影響 加藤
行動的コーチングが対戦型格闘ゲームにおける対空攻撃と連続技のパフォーマンスに与える影響 塚本
友人に対する援助要請スタイルの適応性についての検討—甘えおよび心理的居場所感に着目して— 藤巻
大学生のSNS使用時と対人場面における攻撃性表出の比較検討 市村
大学生における親の養育態度と対人特性の類似性の関連について 藤巻
赤色光がチャスジハエトリグモの餌まで跳ぶ距離に及ぼす影響
吹き出しを用いた意図の可視化による幼児の意図を重視した道徳判断の促進 池田
処理深度と主体的選択が再認記憶および 事象関連電位に及ぼす影響 石金
格闘ゲームを用いた運動技能学習における組織化と複雑性の効果
親子関係・友人関係の認識が シャイネスに与える影響 加藤
青年期における自我同一性の発達が夢の構造に与える影響について 高田
心理社会的不適応の生起メカニズムの理解とその支援の検討 ――自己指向性と社会指向性の2次元モデルと各階層性から―― 下斗米
親の養育態度が対人恐怖心性と被害妄想的心性に与える影響 加藤
共感性と認知のゆがみが攻撃行動に与える影響について 越智
心理ネットワークアプローチを用いた不眠症状のネットワーク構造と介入シミュレーション 国里
生 態 学 的 シ ミ ュ レ ー シ ョ ン に よ る 仲直り モ デ ル の 検 証 小杉
「集団特性がコミュニティ感覚およびプロアクティブ行動を介して継続意向に及ぼす影響」 –集団へのプロアクティビティの向上に向けて– 下斗米
顔と名前の社会的ブーバキキ効果の検討 中沢
ホラー映画選好と性格特性および、コロナ禍の 不安・うつとの関係性 越智
損失後の追いかけ行動に対するフレーミング効果の影響
現代の学生の自尊感情・仮想的有能感が 攻撃性に及ぼす影響 越智
大学生の死生観に対する意識調査と影響を与えた人物の存在についての調査 高田
身体表象における触覚刺激と感覚予測誤差の役割の検討~スライムハンド錯覚を用いて~ 中沢
高齢者犯罪の動向 越智
非共感覚者におけるかな文字・漢字の色字共感覚的な対応付け 塚本
ショート動画形式の学習効果 長尺動画との比較から 石金
違和感の認識がロゴの好感度評価に与える影響の検討 大久保
大学生の食事形態に関する質的調査と 共食の質と自己愛傾向および自尊感情との関連について 高田
映像内のモデルとの類似性が学習性無力感の生起に与える影響
他者に対する否定的言語行為をめぐる葛藤状態に関する検討 ――否定的言語行為の功罪をめぐって―― 下斗米
異文化体験の捉え方と他者評価懸念の関連性 国里
理想自己と現実自己の差異を捉える自己像への意味づけの検討 ――相互作用場面と生活空間の観点から―― 下斗米
対人ストレスとSNS上での攻撃性の関連性について 市村
子どもにおけるメデューサ効果の生起についての検討 池田
美容院施術による心理的効用 高田
アイドルファンにおける心理的所有感の構造 ―STARTO ENTERTAINMENTファンにみる推しとの関係性― 高田
大学生のインスタグラムの利用と賞賛獲得欲求・拒否回避欲求の関連 加藤
楽曲聴取時における音符の密度とテンポが時間知覚へ与える影響 中沢
居住住宅と心理的自立の関連 市村
2種類の運動残効に視覚的注意および聴覚的注意がもたらす影響の検討 中沢
夫婦間葛藤が子どもに及ぼす影響と自尊感情 市村
熟慮性と陰謀論信念の関連に対する曖昧さへの態度の調整効果の検討 高田
親の養育態度(応答性・要求度)が子どものSNS利用行動に与える影響 岡村
大学生における心理学的タイプ論の研究 高田
音楽動画のタイトルにみられる音楽ジャンルとストレス軽減との関連 塚本
「受容」とBIS/BASの関係が曖昧な状況に対する態度へ与える影響 国里
人付き合いに困難さを抱えている人のリソースを見出した関わりとその社会的文脈 ―他者から見た、 人付き合いに困難さを抱える人に関する対人関係の側面からの検討とその状況が与えた影響について― 塚本
オンライン会議における背景画像が第一印象に与える効果と文化的差異 大久保
ポジティブな衝動性とネガティブな衝動性の特徴と性差の分析 越智
ソーシャルスキルの自己認知が自己開示に与える影響 藤巻
ミュンヒハウゼン症候群尺度の作成と関連する要因の検討 越智
動画を使用したウマの模倣の検討
マスクを着用した表情の誤認とアクションユニット(AU)の関係 大久保
Trait マ イ ン ド フ ル ネ ス は ス マ ホ 依 存 による 実行機能低下 を 緩 和 するか ? ~ EFQ 下位尺度 による 詳 細 分 析 ~ 岡村
保護ネコが親近性の異なる人物からの社会的手がかりに示す反応の検討
他者の所有物による個人空間の侵害が抑制機能に及ぼす影響 池田
孤独感と批判的思考の関連及び影響について 加藤
大学生におけるひきこもり親和性と「社会場面内での回避行動」の関連 藤巻
自己受容と他者受容のバランスとアサーションの関連 加藤
Steam ユーザーレビューにおけるプレイ時間と評価内容の関連性: テキストマイニングを用いたジャンル別検討 小杉
大学生の性格特性、衝動買いの傾向、 および購買後の後悔感情との関係性 岡村
大学生における推し活がウェルビーイングにつながる条件の検討 国里
レジリエンスおよび個人属性はリーダーシップを強化するか 岡村
青年期後期における親との関係性が友人への依存性に及ぼす影響 藤巻
主観的覚醒度の違いがマインドワンダリングに及ぼす影響 国里
価値観の受け入れがたさの規定因と適切な対処方略の検討 ―多様性の醸成に向けて― 下斗米
評価懸念とアサーション4要件および本来感の関連について 藤巻
生 演 奏 の 音 楽 体 験 が 感 情 に 及 ぼ す 影 響 –観 客 と 演 奏 者 の 比 較 藤巻
大学生におけるADHD傾向と自尊感情の関連 ― 親の養育態度に着目して ― 岡村
バラバラ殺人事件における 被害者―加害者の関係と犯行タイプの関連について 越智
Balloon Analogue Risk Task(BART)における時間制限の履歴依存的リスク行動への影響 小杉
知覚強度操作によるサブリミナル表情プライミングと美的評価 石金
音楽の構成要素と心拍の関連 石金
空間解像度の違いが単語知覚と事象関連電位に与える影響の検討 石金
大学生の自立と「自己愛的甘え」の関連 市村

修士論文(13件)

心理ネットワークを用いた感情粒度の定量化と感情ラベリングの効果の検証

指導教員: 国里

要旨を読む

感情粒度は,感情をどれほど細やかに経験・区別できるかという個人の能力を表す概念である。感情粒度の高さはメンタルヘルスの保護因子として知られており,臨床心理学的な観点からも重要な概念である。従来の感情粒度研究では,主に級内相関係数(ICC)を用いた指標が使用されてきたが,この指標では個人内の感情の構造的・動的な情報が失われるという課題があった。そこで本研究では,新たな感情粒度の定量化手法として,変数間の偏相関関係を可視化する心理ネットワークの導入を提案した。本研究では,個別ネットワークを用いた感情粒度の指標の妥当性を検証したうえで(研究1),事前登録した対面実験を行うことで感情ラベリングによって感情粒度や感情システムがどのように変化するかを検証した(研究2) 。 研究1 研究1では,既存の経験サンプリングデータ(Rowland & Wenzel, 2020)の二次解析を行い,従来のICCに基づく指標と個別ネットワークの密度(エッジの絶対値総和)との関連を検討した。解析の結果,従来指標とネットワークの密度との間に中程度の負の相関が認められた。これは,感情粒度が高い個人ほどネットワークがスパースであり,特定の感情生起が他の感情へ無差別に波及しないことを意味する。この結果から,心理ネットワークの密度が,感情粒度を反映する代替指標として機能する妥当性が示された。 研究2 研究2では,大学生46名を対象に実験室実験を行い,短期的な感情ラベリングが感情粒度に与える影響を検討した。参加者は介入群(感情語を選択するラベリング課題)と統制群(人物の有無を判断する課題)に割り当てられ,介入前後に感情粒度を測定するためのPED課題を行った。主要な仮説として,(H1)従来のICC指標の向上,(H2)ネットワーク密度の低下,(H3)不快画像に対する主観的苦痛の低減が予測された。実験の結果,H1からH3のいずれの仮説も統計的に支持されなかった。ICCおよびネットワーク密度において群間の有意差は見られず,主観的苦痛については統制群でのみ低下が見られ,介入群では苦痛が維持された。 探索的分析 探索的分析として行った動的探索的グラフ分析により,感情ラベリングによる以下の質的な変化が示唆された。第一に,構造的な変化として,介入群においてのみ介入前に孤立していた怒りのノードが,介入後にはネガティブ感情のコミュニティへと統合された。これはラベリングによって曖昧だった怒りの概念が明確化され,感情システムの中に適切に位置づけられたことを示唆する。第二に,動的な変化として,統制群では多くの感情で変動性が低下しシステムが不活性化したのに対し,介入群ではネガティブ感情の反応性が維持され,かつポジティブ感情の変動性が増大した。探索的分析の結果から,介入群ではラベリングにより感情体験への直面化が促され,システムが固着せずに柔軟性が高まった可能性が示唆された。 結論 本研究は,心理ネットワークが感情粒度の構造的な可視化に有用であることを示した。また,短期的かつ受動的なラベリングは感情粒度のICCや密度による量的指標を即時的に変化させるまでには至らないものの,感情概念の構造化(怒りの統合)や感情システムを活性化させる動的な変容をもたらす可能性が示唆された。研究2では,介入強度や反復測定による疲労などの影響を否定できないが,探索的分析で確認された動的な変化は,介入による感情粒度の上昇の基礎的なメカニズムとして解釈できるかもしれない。今後は,先行研究で報告されている長期的な介入による感情粒度の上昇と併せて検討を重ねることで,感情に対する心理療法の作用機序を明らかにすることが求められる。


能動的推論モデルを用いた反すうのシミュレーション ー適応と不適応の境界の探索ー

指導教員: 国里

要旨を読む

反すうは不安や抑うつ,精神病など精神疾患の診断の枠を超えて影響を与えるとして重要視されている(Watkins & Roberts, 2020)。反すうとはある特定のテーマや問題に集中していて,その思考を必要とする直接的な環境要求がないにもかかわらず反復する意識的思考のことである(Martin & Tesser, 1996)。計算論的モデルを用いて反すうの機能を検討した先行研究がある(Bedder et al., 2023 ; Berg et al., 2022)。Bedder et al. (2023) は反すうを隠れ状態推論の試みとしてモデル化した。反すうには世界の状態を推測し,ネガティブな感情体験が起こった意味を理解するという適応的な機能があると示している。一方で,Berg et al. (2022) は反すうをメンタルシミュレーションの歪みとしてモデル化し,不確実性を解消しない過剰で効果のない行動候補をサンプリングするという不適応的な機能があると示している。これらの先行研究において,2つの大きな課題がある。第1に,反すうのプロセスが異なる計算論的枠組みを用いている。第2に,反すうの機能とそれがもたらす結果としての適応性について,先行研究で扱っているのは適応・不適応のいずれか一方である。 したがって,本研究は能動的推論の枠組みを用いて,反すうが同一のプロセスから適応・不適応を説明できるのか検討することを目的とした。また,反すうがどのような要因によって適応・不適応の境界を超えるのか探索することを目的とした。最初に,Bedder et al. (2023)とBerg et al. (2022)のモデルを基にして,反すうを内部モデルの精度調整プロセスとして位置づけた階層的能動的推論モデルを構築した。シミュレーションの結果,研究1において,反すうと報酬量に逆U字型の関係が見られたことから,同じプロセスから反すうの適応的側面と不適応的側面を説明できる可能性が示唆された。また,環境の不確実性や観測の分散が大きい場合に,小さい場合に比較して反すうと報酬量の逆U字型のピークが右側になる傾向が見られ,環境によって違いが見られた。それらから,環境の不確実性や観測の分散が反すうの適応性を左右する可能性を示した。 次に,研究2において,研究1で得られた結果が人を対象とした実験デザインという制約下においても維持されるかというモデルの頑健性を検討するため,より現実場面に近い設定でシミュレーションを行った。その結果,研究1で見られたような,報酬量と反すうの関係に逆U字型は見られなかった。そのため,研究2の結果からは,環境の変動や観測の不確実性によって,反すうが適応的に働くことを強く主張することはできなかった。しかし,環境の変動性や観測の不確実性によって,反すう回数と報酬量の相関関係に違いが認められ,反すうの適応性が動的に変化する可能性を示唆した。 さらに,研究3では,人対象の実証研究において,環境の違いによる反すうの適応性の転換が観察されるか検討した。その結果,反すう特性と課題パフォーマンスの間に有意な相関は見られなかった。しかし,回避行動と報酬量の間に環境の不確実性に応じた動的な関連が確認された。環境によって回避行動の適応性が変動することが示唆された。また,反すう特性と,課題パフォーマンスおよび回避行動と有意な相関が見られなかったことは,特性的な反すうと状態反すうの解離,さらに反すうと観察される行動としての回避の解離があると示唆された。これらは反すうがもたらす行動について解明することや,よりモデルを洗練させること,モデルの反すうを実証実験でとらえる測定方法の検討を通して,シミュレーションモデルと実証実験のギャップを埋める必要性を示唆しているだろう。 本研究の知見は,臨床現場において反すうを排除すべき症状ではなく,環境によって動的な機能の変化を持つものとして捉える必要性を示した。特に,現代社会のような不確実性や変動性の高い環境において,反すうは安定し明確な環境とは異なる機能を果たす可能性がある。反すうに焦点を当てた認知行動療法(RF-CBT)をはじめとした従来の治療法は,反すうを軽減することを目的としている(Spinhoven et al., 2018)。それに対して,本研究の結果は反すうの不適応的な機能にアプローチするという新たな介入の方向性を提示した。


自然言語における感情構造

指導教員: 小杉

要旨を読む

分析には,学習データの異なる4つのGloVeモデル(CommonCrawl.300d, Wiki+Giga 200d,Wiki+Giga 300d,Twitter.200d)を使用し,Russell(1980) で用いられた27の感情語を対象とした. 各モデルから抽出した単語ベクトルに対し,主成分分析,多次元尺度法(MDS),お よびIDIOSCALを用いて分析を行った. 主成分分析の結果,いずれのモデルにおいても第二主成分までの累積寄与率は約20パーセントにとどまり,分散の大部分を説明するという仮説は完全には支持されなかった.しかし,抽出された主要な成分は「覚醒度」および「快-不快」の次元として解釈可能であった. また,CommonCrawlおよび Wiki+Gigaモデルにおいては,MDSの座標とラッセルの理論的座標との間に高い相関(r > .70)が確認された. 視覚的な配置においても, これらのモデルでは「高覚醒・快」「低覚醒・不快 」などの語群が円環モデルに対応する象限に概ね布置され,感情語が二次元空間上で円環構造を形成することが示唆された. 一方で,Twitterモデルにおいては,円環構造の再現性は他のモデルと比較すると低かった(相関係数 r = .59). これは,SNS特有の皮肉表現などにより,感情語が辞書とは異なる意味で用いられる影響が分散表現に反映されたためと考えられる. また,全てのモデルに共通して,“content”(満足した/内 容)や“droopy”(意気消沈し た /キャラクター名 )といった同一の綴りを持ちながら異なる意味で用いられる単語が,外れ値となる傾向が見られた. これは,GloVeが文脈を考慮しないモデルであることに起因する限界であると考えられる.

以上の結果から,Russell(1980) が仮定するの円環モデルは,Wikipediaやニュース記事のような標準的なテキストデータに基づく意味空間には一定程度内在していることが明らかになった. 本研究は,感情の心理学理論が自然言語の構造に反映されていることをデータ駆動的アプローチによって実証した点で意義がある. 今後は,文脈の影響を考慮できるBERT等のモデルの導入や,他の心理学理論と単語埋め込みとの比較など,さらなる検討が必要である.

引用文献 Russell, J. A. (1980). A circumplex model of affect. Journal of Personality and Social Psychology, 39 (6), 1161–1178. https://doi.org/10.1037/h0077714


放課後等デイサービスにおける送迎で起こる行動問題への支援に関する検討

指導教員: 塚本

要旨を読む

本研究では,放課後等デイサービスの送迎支援に焦点をあて,動機づけアセスメント尺度(MAS)を用いて,送迎場面で起こる行動問題の機能的アセスメントを実施し,行動の機能を推定するとともに,送迎の環境要因による行動への影響を検討することを目的とした。参加者は放課後等デイサービスにおいて5年以内に勤務経験があり,その中でも送迎業務に携わったことがある者であった。質問紙調査を実施し,主に「放課後等デイサービスの支援体制」「具体的な行動問題の生起頻度」「最も頻繁に生起した行動問題」「最頻出行動に関する危険度や事故や怪我の有無」「最頻出行動に対するMASへの回答」を尋ねた。 結果,行動のカテゴリと危険度の関連について,「安全阻害」に分類された行動問題は,「こだわり」に分類された行動問題より,主観的な危険度の評価が高くなりやすいことが示された。また環境要因の検討では,添乗員が常にいる群において「物・活動の要求」機能は「注目」機能よりも有意に高いという結果が得られた。一方で,送迎時間は危険度や行動の機能に,有意に影響しなかったことが示された。 行動をカテゴリ別に検討した結果,安全阻害行動は送迎の安全性に直接的に影響すると考えられるため,その即時性や重篤性によって,主観的危険度に影響したと推察された。一方で「こだわり」による行動については「安全阻害」行動と比較すると,「危険度」には影響しないことが示されたが,「こだわり」によって生じる行動が危険ではないということは一概に言えない。「こだわり」によって生じる行動は,そのこだわり自体への干渉が難しく,また行動が他児にも影響し,間接的に「安全阻害」行動などにつながる可能性が考えられる。環境要因の検討では,送迎車内に添乗員が常にいることによって,注目機能で維持される行動は抑制される一方で,移動中の退屈な,また閉鎖的な空間によって物や活動を要求するといった行動問題が生じやすいと考えられる。今後は送迎車内において,複数の機能的アセスメントを組みあわせて行動の機能を推定するとともに,推定された機能をもとに,個々の状況や特性に合った送迎支援について検討する必要がある。


自虐的ユーモア表出者に対する被援助志向性の違い ーユーモアスタイルに焦点を当てた検討ー

指導教員: 高田

要旨を読む

自虐的ユーモアを表出する職業的な援助者に対する被援助志向性を被援助者のユーモアスタイルに焦点を当てて検討した。研究を進める上で,自虐的ユーモアの定義は研究者によって提唱されているものの,現実の会話の場面においてどのように自虐的ユーモアが用いられているかの詳細についての十分な検討はされていない。そのため人々の考える自虐的ユーモアの発言を収集し,概念を整理することで人々が自虐的ユーモアをどう捉えているのか を明らかにする必要があり,研究1では自虐的ユーモアが学業場面,仕事場面,日常場面,趣味場面の4場面においてどのような使われ方をしているのかを調査した。関東地方の私立大学の学生19名(男性6名,女性13名,平均年齢20.11歳,SD=1.02)に対して,集合調査法による調査を実施した。自虐的ユーモアの定義を説明した上で,回答に正解及び不正解がないことを伝え,回答者の考える自虐的ユーモアを自由記述で回答するよう教示した。結果,学業場面における自虐的ユーモアが18個,仕事場面においては10個,日常場面において13個,趣味場面において13個収集された。 収集された自虐的ユーモアを指導教員1名,大学院生2名の計3名でKJ法に類する方法で分析を行ったところ,文章の構成に基づいて【自虐をし続ける発言】,【自虐が裏返る発言】,【自虐を別の何かに例える発言】の3つに分類された。また収集された自虐的ユーモアから,人々は自虐に加えて,攻撃的ユーモア,親和的ユーモア,支援的ユーモアの要素のいずれかが含まれているものを自虐的ユーモアだと考えていることが示唆された。 研究1で収集された自虐的ユーモアを基に,研究2では関東地方の私立大学の大学生88名を対象に,ユーモアスタイル,自虐的ユーモアを表出する職業的な援助者(自虐的ユーモアあり群)または自虐的ユーモアを表出しない職業的な援助者(自虐的ユーモアなし群)に対する被援助志向性を場面想定法を用いた質問紙調査を行った。自虐的ユーモアあり群は40回答,自虐的ユーモアなし群は44回答得られた。結果について,被援助志向性とユーモアスタイルをノードに群間で心理ネットワーク分析を行ったところ,職業的な援助者に対する被援助志向性と被援助者のユーモアスタイルには関係がないことが示唆された。また,被援助志向性を従属変数に群間でマン・ホイットニーのU検定を行ったところ,職業的な援助者が自虐的ユーモアを表出するか否かによって,援助要請内容の傾向に違いが生じることが示された。しかし,職業的な援助者が自虐的ユーモアを表出するか否かは,被援助志向性の強さには関係がないことが示唆された。このことから,自虐的ユーモアを職業的な援助者が表出することによって,被援助者が職業的な援助者を職業的な援助者としてだけでなく,一人の人間として捉え,援助者を自分と同じような失敗や欠点のある存在であると同一視し,援助を行うことが有効かどうかの判断を明確にしていると考えられる。しかしながら,「悩みがあったら何でも相談してください」という援助要請を促進する発言によって,被援助者は援助者のことを援助が可能な資源だと見なすのみで,援助者の人柄や相談対応の懸念といった援助要請をするにあたっての詳細な評価をしていない可能性が考えられる。援助要請が可能か否かの判断は援助要請を行う上で最も重要な判断基準であり,その判断の重要性と比べると,教師が自虐的ユーモアを話していることはあまり重要視されていなかったことから,自虐的ユーモアの有無によって被援助志向性の強さは変化しなかったのではないかと考えられる。 今後の展望としては,ユーモアスタイル以外の要素と地域性の考慮が挙げられる。自虐的ユーモアを人々が評価する際にはユーモアスタイルではなく,異なる要素の可能性が考えられた。また,関東人ではなく,関西人にも調査をしてみることで変化が生じる可能性が考えられた。


LNREモデルによる自由記述回答の飽和指標

指導教員: 小杉

要旨を読む

自由記述回答を含む質的研究や調査において,回答収集を終了する際の根拠となる「飽和(saturation)」の判定は,従来,研究者の主観に委ねられる側面が強かった。客観的な指標として再捕獲法が提案されてきたものの,自由記述回答が持つ偏在的なトピック分布特性を十分に反映できず,飽和を早期に過大評価してしまう限界が指摘されていた。本研究では,この課題を克服するため,計量言語学の分野で語彙量の推定に用いられるLNRE(Large Number of Rare Events)モデルを導入し,自由記述回答における飽和の定量的評価手法とその実践的な停止基準を確立することを目的とした。

## 2. 研究1

まず研究1では,3つの確率分布に基づくシミュレーションデータおよび実際の自由記述回答データを用いて,従来手法である再捕獲法と提案手法であるLNREモデルの推定精度を比較検証した。その結果,LNREモデルは再捕獲法よりも二乗平均平方根誤差が小さく,高い適合度を示した。特筆すべきは,LNREモデルが飽和率を保守的に見積もる傾向を持つ点である。これは,未飽和な状態で誤って調査を終了してしまうリスクを低減させ,研究の質を担保するという実践上の安全性の観点からも,同モデルが有用な指標であることを示唆している。

## 3. 研究2

モデルの妥当性が確認されたことを受け,研究2では,LNREモデルを用いた実践的なデータ収集の停止基準を検討した。潜在トピック総数に基づく基準や母集団規模に基づく基準など4つの指標を比較した結果,理論的に完全な飽和を目指すことは無限に近い回答数を要するため,現実的な調査運用には適さないことが確認された。そこで,トピック成長曲線の挙動に着目し,「傾きが0.05以下になる時点」を停止基準として採用した。この基準は,理論的飽和への接近と調査資源の制約とのバランスを考慮した,現実的かつ妥当な折衷案であると結論付けられた。

## 4. 研究3

さらに研究3では,宿泊施設レビューデータを用いた検証を行い,研究2にて提案した傾き0.05停止基準の適用可能性と限界を探った。潜在意味分析と階層的クラスタリングによる機械的なトピック分類を用いた分析の結果,傾き0.05基準は大規模な自由記述回答データにおいても有効に機能することが確認された。一方で,回答収集が予測必要数の1/8に満たない初期段階では推定値が不安定になりやすいことや,トピック分類のクラスタ数の設定が飽和率に直接的な影響を与えるという課題も明らかとなり,運用上の具体的な指針が得られた。

## 5. 総合考察 本研究はLNREモデルを用いた飽和指標が,従来の経験則の限界を克服し,回答収集の計画と終了判断に客観的な数値基準を提供するものであることを示した。本手法の確立は,質的研究におけるプロセスの透明性を高め,効率的かつ信頼性の高い研究遂行の基盤構築に寄与するものである。


幼児・児童における障害への態度形成の解明と介入効果の検証

指導教員: 岡村

要旨を読む

障害の有無に関わらず,互いにその人らしさを認め合いながら共に生きる「共生社会」を目指す動きが広がっており,障害に対する社会全体の理解と対応の重要性は一層高まっている。そのような背景から,本研究では,幼児・児童における発達障害への態度の実態とその形成要因を解明し,偏見低減に向けた効果的な介入手法を検討するため,2つの研究を実施した。

研究1 研究1では,5歳から11歳の児童76名を対象に,ASD,ADHD,身体障害,およびコントロール条件としての定型発達児のキャラクターに対する態度を,「印象得点」と「関わり得点」の二つの指標で測定した。その結果,ASDについては印象評価において発達的な変化が見られ,5-6歳児と比較して,7-8歳児がよりポジティブに印象を評価していた。一方で,ADHDについては両指標ともに発達的な変化は確認されなかった。また,ADHDに対する評価は,不可視の行動特徴により周囲と摩擦が生じうる定型発達児のキャラクターに続いて,他の特性と比べて,よりネガティブに評価されていた。 あわせて保護者57名を対象とした質問紙調査を行い,環境的要因が子どもの意識に与える影響を分析した。その結果,発達障害に対する態度の形成において,親の態度や知識といった環境要因の影響は一様ではなかった。具体的には,ASDでは会話経験がある場合に親の知識が子どもの肯定的態度と関連したが,ADHDでは会話がある場合に親の知識が豊富なほど子どもの態度がネガティブになるという異なる関連が示唆された。特にADHDに関する情報や知識はその伝え方や文脈によっては,子どもの警戒心を高める可能性が考えられ,単なる知識の伝達にとどまらない提示方法の質を精査する必要性が確認された。

研究2 研究2では,研究1の結果に基づきADHD特性を持つ児への偏見低減を目的とした介入プログラムの有効性を検証した。検証にあたっては,新たに介入群と統制群の2群を設定した。各群の測定得点を研究1で得られたADHDに対する測定得点(ベースライン群)と比較することで,介入効果の検討を行った。介入群に対しては,ADHDに関する医学的基礎知識の伝達に加え,対象児と自分との共通点を見出す「類似性の強調」と,相手の心情や意図を推測させる「視点取得トレーニング」を実施した。一方,統制群には知識提供と客観的な事実確認の質問のみを行った。分析の結果,ADHD児に対する印象評価において,介入群では月齢の上昇に伴う効果が見られ,特に月齢107ヶ月(約9歳)以降において,介入を行わないベースライン群を統計的に上回る効果が見られた。この効果は,般化フェーズにおいても維持される傾向が確認された。これは,認知的成熟が進んだ児童において,対象を肯定的に捉えるための認知的な枠組みが内在化されたことを示唆している。

結論 障害の可視性が低く,行動面での摩擦が生じやすい特性においては一貫してネガティブに評価されやすいことが明らかになった。特に,ADHDに対する態度の変容には,幼児・児童に対して,ただ情報や知識を伝えたり視点取得を促したりする操作では不十分である可能性が示唆された。印象の改善を行動へと繋げるには,内面的な理解に加え,今後併用すべき具体的なアプローチを考えることが共生行動の実践に向けた重要な課題なのかもしれない。


ウシガエル網膜のOFF持続性神経節細胞における順応水準参照性と神経回路機構

指導教員: 石金

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網膜の最下流で情報処理を担う神経節細胞は,古典的には増光に応答するON型,減光に応答するOFF型,増光・減光の双方に応答するON-OFF型細胞に大別されてきた。さらに,網膜が順応している照度(順応水準)に応じて,受容野構造や応答極性が変化することが知られている。しかし,照度変化が順応水準より高照度側で生じたのか,あるいは低照度側で生じたのかという「順応水準に対する相対的位置」を区別して符号化しているか否かは,十分に検討されていない。そこで本研究では,ウシガエル網膜のOFF持続型神経節細胞であり,捕食者接近に伴う減光刺激に応答して逃避行動を誘発するとされるディミング検出器に着目し,順応水準を基準とした減光方向の違いに対する応答特性,ならびにその神経回路機構の解明を目的とした。ウシガエルを安楽死処置後に眼球を摘出し,剥離網膜標本を作製した。網膜神経節細胞の活動電位を多点電極アレイで記録し,空間一様なスロープ刺激を呈示した。スロープ刺激は,照度が連続的に変化するスロープフェーズと,照度を一定に保持する定常光フェーズから構成され,照度は順応水準を挟んで高照度側および低照度側へ変化する。順応水準より高照度側から順応水準へ向かう減光を to AL,順応水準から低照度側へ向かう減光を from AL と定義し,各フェーズの総発火数から順応水準参照性インデックス(adaptation-level-referenced index:ALR index)を算出して応答非対称性を定量化した。実験Ⅰでは,ALR index分布に二峰性が認められ,ALR index = 0.9 付近に谷が観察された。これを境に,減光に対して常に応答する順応水準非参照型細胞と,from ALに選択的に応答する順応水準参照型細胞に分類した。実験Ⅱでは,実験Ⅰで観察された応答特性が「順応水準の参照」に由来するかを検討した。順応水準を1.75 luxと3.50 lux の2条件で操作したところ,順応水準非参照型細胞群ではALR indexが上昇した一方,順応水準参照型細胞群では顕著な変化は認められなかった。また,定常光時間を1 sと4 sで操作した場合には,両群ともALR indexは大きく変化しなかった。これらの結果は,観察された応答特性が単なる順応時間の差や特定照度への感度によって説明されにくく,順応水準そのものを参照していることに由来する応答特性である可能性を示す。実験Ⅲでは,周辺領域由来の抑制寄与を検討するため,網膜全体を刺激するfull-field刺激と,当該細胞の受容野中心を主として刺激するspot刺激に対する応答を比較した。順応水準参照型細胞群では,抑制領域の刺激量が相対的に小さいspot刺激においても,full-field刺激と同程度の発火しか認められなかった。以上より,順応水準参照性が周辺からの抑制のみで説明される可能性は低く,受容野中心の興奮性入力のゲイン調整が関与する可能性が示された。実験Ⅳでは,抑制性受容体拮抗薬を用いて神経回路機構を検討した。GABAA受容体拮抗薬SR95531は両群でALR indexを低下させ,主としてto ALにおける発火増加を伴った。一方,GABAC受容体拮抗薬TPMPA,グリシン受容体拮抗薬Strychnine,GABAB受容体拮抗薬CGP55845はいずれもALR indexを有意に変化させなかった。これらの結果から,順応水準参照性はGABA作動性抑制,特にGABAA受容体を介した抑制によって形成される可能性が示された。GABA供給源としては広範囲に軸索を伸ばすwide-fieldアマクリン細胞の関与が想定され,抑制入力の空間的不均一性が参照性の成立に寄与する可能性がある。機能的には,順応水準参照型細胞は捕食者接近に伴う減光の検出を精緻化する一方,順応水準非参照型細胞は減光全般を広いダイナミックレンジで符号化する役割を担うと考えられる。以上より,本研究は,同一細胞タイプにおいて順応水準を基準とした複数の符号化様式が並存しうること,ならびにその形成にGABAA受容体依存の抑制が関与することを示した。


一般市民の非行少年に対する当事者性の獲得に関する研究 ーー非行少年に対する意味づけと更生可能性からの検討ーー

指導教員: 岡村

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現在、非行少年の更生には専門家だけでなく、地域住民による理解や支援が不可欠とされている。しかし、実際には一般市民の関心は低く無関心だったり、非行少年に対してネガティブなイメージを持つ傾向が強かったりする現状にある。そこで、本研究ではそのような状態を当事者性の欠如、または悪しき当事者性とした。ここでいう「当事者性」とは、一般市民が非行少年を自分と同じ社会を構成する他者としてどのように捉え、意味づけているかを表す概念を指す。そして、その当事者性を反映する指標として更生可能性の認識を指標として位置づけた。また、人々の「当事者性」を捉えるために、中村(1990)の自己過程の4位相を応用した。最初の段階は非行少年の姿への注目で、非行少年の特徴に目を向ける段階とした。次の段階は非行少年の姿の把握で、非行少年の過ごす日々や人物像を捉える段階とした。次の段階は非行少年の姿への評価で、非行少年に対し良悪や嫌悪といった評価を行う段階とした。最後の段階は非行少年の姿の表出で、以上の三段階で形成された非行少年の存在という意味づけが、他者との語りの中で表現される段階とした。以上から本研究では、一般市民が更生環境を構成する一員として、当事者性をどのように、どの程度獲得しているのか、更生する可能性をどの程度感じるかを知り、非行少年に対する関心を高めるような要因、阻害する要因を議論するための情報を得ることを目的とした。そして、人々が非行少年に対する当事者性を高く獲得し、更生可能性を高く見積もるほど、その市民の非行少年の更生を阻害する要因は少なくなるという仮説を立てた。 本研究では、102名を対象にWeb調査を行った。まず非行少年Aを想定させ、前述の4位相に基づく自由記述と定量的な質問を行った。また、非行少年Aの更生可能性の評価や、回答者自身の支援意欲について測定をした。 結果として、まず回答者は非行少年との接触機会や専門知識が少ない一般市民で構成されていた。そして、注目から表出までの参加者の自由記述回答を階層的クラスター分析した結果、3つの群が抽出された。クラスター1は、非行少年に無関心で否定的な「希薄な関心と否定的まなざし」群とした。クラスター2は、非行少年の多側面の特徴を捉え、自分事として受容的に捉える「多角的洞察と肯定的受容」群とした。クラスター3は、表層的な情報を多く捉え、非行少年自身に責任を求める「表層把握的で敵対的葉所」群と命名した。そのうえで、各カテゴリー間で分散分析を行った。また、更生可能性に関する項目と更生支援意欲に関する項目の間で相関係数を算出した。その結果、クラスター2では他の群よりも熟慮して回答をしており、非行少年との心理的な距離が近く、非行少年が社会で暮らすことのハードルの高さを感じつつも更生支援の必要性を高く考える傾向がみられた。一方で、クラスター1では、非行少年に対して無関心さがあり、多側面な側面を捉えることも欠けており、自分とは違う存在として否定的な態度をとりやすい傾向がみられた。またクラスター3では、行動と言った人の目に入りやすい情報を多く捉え、非行を行ったことは自己責任であり、自分とは違う存在として考えやすい傾向がみられた。 以上より、当事者性を最も強く獲得しているのはクラスター2である「多角的洞察と肯定的受容」群であることが考えられた。一方でその中でも、完全に非行少年を自分と同じ人間として捉えることには心理的な葛藤や困難がみられた。つまり、完全な当事者性を獲得しているというよりは、非行少年に対して葛藤を抱きつつも、思考を停止せず、社会の一員として認めようとする、良き当事者性を獲得するための入り口にいる状態であると考えられた。一方クラスター1は、関心が希薄な状態で非行少年をよくわからない遠い存在として見ており、クラスター3は表層的な負の特徴を多く捉え相応の報いを受けるべきだと評価しており、両群とも当事者性を獲得しにくいことが考えられた。 そして非行少年の関心を高める促進要因は、「熟慮」、「多角的な把握」、「自分事としての捉え」であり、阻害要因は「無関心」と「表層的な注意や把握による思考の固定化」であると考えられた。当事者性を最も高く獲得しているクラスター2は、社会生活を過ごす困難さという現実を捉えているからこそ、更生可能性を見出し、人からの助力が必要であると意識しており、それらが更生支援意欲を支える要因になっていると考えられた。以上のことは、仮説を支持しつつも、困難さの認識と非行少年の今後の可能性が両立していることが示された。 本研究においては、非行少年だけでなく、障害者といった社会的な弱者への支援にも応用できると考えられる。一方で、今後は回答者や対象少年の属性による影響をさらに検討する必要がある。


課題共有志向および課題の原因帰属と建設的なフィードバックの形成との関係 ーフィードバックをする人を対象として

指導教員: 下斗米

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課題共有および課題の原因帰属と建設的なフィードバックの形成との関係関係 ML24-7013D ゴ テキ

本研究の目的は、フィードバックを「行う側」に着目し、課題共有志向および課題の原因帰属を含む認知・動機づけ過程が、建設的なフィードバックの成立にどのように関与するのかを明らかにすることである。建設的なフィードバックとは、自己・相手・二者関係に対して肯定的な変化をもたらしつつ、否定的影響を相対的に抑制する相互作用であると定義し、その形成過程を多面的に検討した。 本研究では、建設的フィードバックの成立を、対人関係的背景要因(a)、認知・動機づけ過程(b)、課題共有志向(c)、フィードバック結果(d)という四位相プロセスとして理論的に位置づけた。この枠組みに基づき、質問紙調査を実施し、参加者に過去のフィードバック経験を想起させたうえで、関係性の特性(公的・私的関係性、上下・対等関係性、親密度)、課題の原因帰属、フィードバックの動機づけ(利他的動機、自己保護的動機)、発言意図・行動傾向、課題共有志向、ならびにフィードバック後に生じた自己・相手・関係性に対する結果を測定した。 課題の原因帰属については、努力、行動、考え方、能力、性格、運、課題の難易度、周囲の人という8つの要因を測定した。分析の結果、これらの原因帰属のうち、親密度が有意な影響を及ぼしていたのは「課題の難易度」への帰属のみであり、親密度が高いほど、課題を課題の難易度に帰属する傾向が強いことが示された。一方、努力、行動、考え方、能力、性格、運、周囲の人への帰属については、親密度を含む関係性要因からの有意な影響は認められなかった。さらに、原因帰属が課題共有志向に及ぼす影響を検討した結果、「課題の難易度」への帰属のみが、課題共有志向に対して有意な正の影響を示した。すなわち、課題を「個人の資質や態度の問題」としてではなく、「課題そのものの困難さ」に起因すると捉えるほど、フィードバックを自己と相手が共有すべき課題として扱おうとする志向が高まることが示された。これに対し、努力、行動、考え方、能力、性格、運、周囲の人といった他の原因帰属は、課題共有志向に対して有意な影響を示さなかった。 フィードバック結果尺度について探索的因子分析を行った結果、自己・相手・関係性という影響対象と、望ましい結果・望ましくない結果という評価軸に基づく6因子構造が確認された。また、発言意図・行動傾向尺度についても因子分析を行い、「支援・共感」「情報提供・問題解決」「傾聴・課題探索」「批判・対立」の4因子が抽出された。いずれの尺度においても、概ね許容可能な内的一貫性が確認され、以降の分析に用いる指標として妥当であることが示された。 分析には、まず階層的重回帰分析を用い、理論的枠組みに沿って独立変数を段階的に投入した。その結果、関係性に関する背景要因のみではフィードバック結果の説明力は限定的であったが、動機づけや発言意図・行動傾向といった認知・動機づけ過程を投入することで説明率は大きく増加した。特に、利他的動機および支援・共感的な発言意図は課題共有志向を高め、望ましいフィードバック結果と関連していた。 さらに、四位相プロセスモデル全体の妥当性を検討するため、共分散構造分析を実施した。その結果、モデルの適合度指標はいずれも概ね良好な水準を示し、本研究で想定した段階的プロセスモデルの妥当性が支持された。具体的には、親密度は利他的動機に正の影響を及ぼし、利他的動機および支援・共感的な発言意図は課題共有志向を有意に高めていた。一方、自己保護的動機や批判・対立的行動傾向は課題共有志向に対して有意な影響を示さなかった。さらに、課題共有志向は望ましいフィードバック結果に対して強い正の影響を及ぼし、否定的結果への影響は限定的であった。 また、ブートストラップ法による間接効果の検討から、利他的動機が課題共有志向を媒介して望ましいフィードバック結果に影響を及ぼす逐次的プロセスが支持された。これらの結果は、建設的フィードバックが単一の要因によって生じるのではなく、関係性に基づく心理的準備、認知・動機づけの方向づけ、課題を共有しようとする志向性が段階的に積み重なることで成立することを示している。 以上の知見から、建設的フィードバックとは、望ましい結果を一方的に最大化するものでも、否定的影響を完全に排除するものでもなく、肯定的変化が否定的影響を上回る状態として捉えるべきであることが明らかとなった。本研究は、フィードバックを行う側の心理的プロセスに着目し、建設的フィードバックの成立を四位相プロセスとして実証的に示した点において、対人支援やコミュニケーション研究に新たな視座を提供するものである。


障害を持ちながら働く人に対する周囲の他者の態度に合理的配慮が与える影響 ー障害の診断名による差異に着目してー

指導教員: 加藤

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合理的配慮は,障害を持つ就労者の生産性や職務満足度(Dongetal.,2020),主観的幸福(Konradetal.,2013)の促進要因である。一方,精神障害を持ちながら働く人は,合理的配慮を申請することによる周囲の他者からの差別を予期する場合,配慮の必要性を感じていても合理的配慮の申請を控えることが示されている(Follmer et al.,2024; Dong et al.,2021)。しかし,障害を持ちながら働く人に対する他者の態度に,合理的配慮を受けているという情報及び障害の診断名がどのような影響をもたらすのかはいまだ明らかになっていない。本研究の目的は,障害を持ちながら働く人に対する他者の態度において,合理的配慮の有無及び障害の診断名に関する情報がどのような影響をもたらすのかを検討することである。 人事業務経験のある成人90名を対象に,ヴィネット実験法を用い,検討を行った。参加者は,ランダムに合理的配慮有群と合理的配慮無群に割り当てられた。「ある企業に勤務する管理職として,自身のチームのメンバー4名を評価する」という旨の状況設定のもと,診断名の異なる4人の人物に対して,それぞれ参照情報(1.直近半年の業務成績,2.健康情報[障害の診断名を含む],3. 勤怠状況, 4.仕事における行動,5.本人からの合理的配慮申請)を確認した後,当該の人物に対し職務能力及び人間性,昇進可能性,スティグマ的態度を評価した。参照情報の内容は,障害の診断名と合理的配慮有無以外は統制された内容が提示された。実験デザインは, 参加者内1要因(障害の診断名[4水準:アルコール依存症, うつ病, 下肢障害, 情報なし])×参加者間1要因(合理的配慮の有無[2水準:有, 無])の混合計画であった。 その結果,合理的配慮がある場合のみ,人間性評価においてアルコール依存症条件の評価が有意に低下した。一方,他条件では向上傾向が見られた。職務能力評価及び昇進可能性の評価,スティグマ的態度においては,合理的配慮有無の有意な影響は見られなかった。また,診断名の違いは,昇進可能性の評価及びスティグマ的態度,人間性評価において,合理的配慮がある場合にのみ有意な影響をもたらした。昇進可能性ではうつ病で最も評価が低く,スティグマ的態度と人間性評価ではアルコール依存症で最も評価が低い傾向が見られた。これらの結果は,障害を持ちながら働く人に対する他者の態度において,合理的配慮を受けているという情報が,その配慮を受けている人に対する評価や態度に与える影響は,障害の診断名ごとに異なる可能性を示唆する。 本研究の結果は先行研究に対し,次の2点において貢献をするものである。第1の貢献は,合理的配慮を受けているという情報が人間性評価に与える影響において,障害の診断名による差異が存在する可能性を示した点である。第2の貢献は,合理的配慮の実施に対する周囲の他者の反応は,その障害がどのようなステレオタイプを伴って理解されているかに左右される可能性を示した点である。


マインドワンダリングが自己効力感に与える影響

指導教員: 藤巻

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人事業務経験のある成人90名を対象に,ヴィネット実験法を用い,検討を行った。参加者は,ランダムに合理的配慮有群と合理的配慮無群に割り当てられた。「ある企業に勤務する管理職として,自身のチームのメンバー4名を評価する」という旨の状況設定のもと,診断名の異なる4人の人物に対して,それぞれ参照情報(1.直近半年の業務成績,2.健康情報[障害の診断名を含む],3. 勤怠状況, 4.仕事における行動,5.本人からの合理的配慮申請)を確認した後,当該の人物に対し職務能力及び人間性,昇進可能性,スティグマ的態度を評価した。参照情報の内容は,障害の診断名と合理的配慮有無以外は統制された内容が提示された。実験デザインは, 参加者内1要因(障害の診断名[4水準:アルコール依存症, うつ病, 下肢障害, 情報なし])×参加者間1要因(合理的配慮の有無[2水準:有, 無])の混合計画であった。 その結果,合理的配慮がある場合のみ,人間性評価においてアルコール依存症条件の評価が有意に低下した。一方,他条件では向上傾向が見られた。職務能力評価及び昇進可能性の評価,スティグマ的態度においては,合理的配慮有無の有意な影響は見られなかった。また,診断名の違いは,昇進可能性の評価及びスティグマ的態度,人間性評価において,合理的配慮がある場合にのみ有意な影響をもたらした。昇進可能性ではうつ病で最も評価が低く,スティグマ的態度と人間性評価ではアルコール依存症で最も評価が低い傾向が見られた。これらの結果は,障害を持ちながら働く人に対する他者の態度において,合理的配慮を受けているという情報が,その配慮を受けている人に対する評価や態度に与える影響は,障害の診断名ごとに異なる可能性を示唆する。 本研究の結果は先行研究に対し,次の2点において貢献をするものである。第1の貢献は,合理的配慮を受けているという情報が人間性評価に与える影響において,障害の診断名による差異が存在する可能性を示した点である。第2の貢献は,合理的配慮の実施に対する周囲の他者の反応は,その障害がどのようなステレオタイプを伴って理解されているかに左右される可能性を示した点である。


性的条件づけ手続きがヒトの注意課題の遂行に与える影響

指導教員: 澤

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実験1では性的画像と対呈示した色と中性画像と対呈示した色を標的もしくは妨害刺激として使用したフランカー課題を用いて実験を行った。手続きはベースラインでフランカー課題を実施し,性的条件づけ獲得前の反応速度を測定した。次に2つの色を性的画像と対呈示するCS+と中性画像と対呈示するCS-に分けて条件づけの獲得手続きを行った。その後,条件づけによる獲得の影響を調べるためにフランカー課題を実施した。続いて条件づけの消去手続きを行った。最後に消去手続きによって条件づけの影響が見られなくなるかを確かめるためにフランカー課題を実施して実験を終了した。実験の結果,全体を通してフランカー効果が見られたものの,獲得後・消去後の反応時間についてはベースラインからの変化は見られなかったが,一致・不一致の中でもCS-が標的刺激となる試行よりCS+が標的刺激になる試行の方が反応時間は早いという当初の予測と異なり,CS+が標的刺激となる試行の方が反応時間は遅いという結果になった。この結果についてはSCIDという視空間的注意が存在しない場合であっても,性的な内容は認知資源を拘束しその結果,後続の情報処理に遅れを生じさせうる現象が起きたと考えられる。 実験2ではSCIDについて検討した研究をもとに,性的動画と対呈示した色と中性動画と対呈示した色を手がかり刺激とした注意手がかり法を使用して実験を行った。手続きは,ベースラインで注意手がかり法を実施し,性的条件づけ獲得前の反応速度を測定した。次に2つの色を性的動画と対呈示するCS+と中性動画と対呈示するCS-に分けて条件づけの獲得手続きを行った。その後,条件づけによる獲得の影響を調べるために注意手がかり法を実施した。続いて条件づけの消去手続きを行った。最後に消去手続きによって条件づけの影響が見られなくなるかを確かめるために注意手がかり法を実施して実験を終了した。実験の結果,全体を通して無効試行より有効試行において反応時間が早いという注意手がかり法の効果が見られ,フェーズによる反応時間の変化については無効試行と有効試行において反応時間の差が拡大し,有効試行においてより反応時間が早くなった可能性があるという結果になった。この結果から練習効果により反応時間が短縮したと考えられる。しかし,探索的にフェーズを10試行1ブロックに分けて反応時間を検討したところ,CS+有効試行において練習効果による反応速度の上昇が一部弱まった箇所が見られ,SCIDによる影響があったと考えられる。また,CS-有効試行において,反応速度の低下と上昇が見られた箇所が存在し,般化による影響と考えられる。 今回の結果からSCIDについて検討したいくつかの研究と似たような傾向が見られたため,これまでの性的条件づけ研究と同様に中性刺激として本来機能していたCSが性的条件づけの獲得手続きによって性的刺激と同様の機能を獲得したと考えることが可能であるが以下のような解釈も可能である。手がかり刺激としてCSを呈示した後に性的刺激が到来するといった予測をして性的刺激をイメージするといった処理を行った影響で遅延が見られたといった解釈である。しかし本研究の結果や先行研究からこのような解釈の妥当性や反証を行うことが出来ない。そのため,性的条件づけがヒトの認知プロセスにどのような影響を与えるかを今後研究していく場合にはこれらをどう切り分けて実験を行っていくかが重要である。


博士論文(1件)

視線処理における領域固有性と領域一般性

指導教員: 大久保

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本研究では, 領域固有の処理に基づく視線ベクトル理論を批判的に捉え, 領域一般性の観点から逆一致効果を説明することを試みた。そこで, ターゲットの認識 (i.e., ターゲットと背景の図地分離) と反応抑制によって構成される二段階仮説を提案した。この仮説では, ボトムアップの反応活性とトップダウンの反応抑制により, 標準一致効果が時間的に減少, そして逆転すると仮定される。識別性が高い刺激では, ターゲットと背景の図地分離が早く, ボトムアップの活性の影響を受けるため, 標準一致効果が生じる。一方, 識別性が低い刺激では, ターゲットと背景の図地分離が遅く, トップダウンの抑制のもとで反応が形成されるため, 逆一致効果が生じる。これらの処理は視線刺激に特有のものではなく, 視線以外の刺激にも共通する。したがって, 二段階仮説では, 刺激の社会的特性にかかわらず, 識別性に依存して一致効果の方向が決定されると予測される。本研究では, 刺激の識別性と一致効果のタイムコースに焦点を当てて二段階仮説を検証した。 第2章では, 識別性が高い社会的刺激が標準一致効果を生じさせるかを検証するため, 頭部刺激を使用した。他者の頭部方向は視線方向と同様に共同注意を喚起する社会的刺激である。そのため, 視線ベクトル理論に基づくと, 頭部刺激でも逆一致効果が生じると予測された。一方, 頭部刺激は, 顔の個々のパーツが空間手がかりとして機能するため, 視線刺激に比べると識別性が高く, ターゲットと背景の図地分離が早いと想定される。したがって, 二段階仮説からは標準一致効果が予測された。実験の結果, 頭部刺激では標準一致効果が生じ (実験1-2), 二段階仮説が支持された。 第3章では, 識別性が低い非社会的刺激が逆一致効果を生じさせるか検証するため, 舌刺激を使用した。視線や頭部の方向が事物を参照する社会的手がかりとして機能する一方で, 舌にはそうした役割は一般的にはない。そのため, 視線ベクトル理論に基づくと, 舌刺激では逆一致効果が生じないと予測された。一方, 舌刺激は知覚的に複雑な顔背景を持ち, 矢印刺激や頭部刺激と比べると識別性は低く, ターゲットと背景の図地分離が遅いと想定される。したがって, 二段階仮説からは逆一致効果が予測された。実験の結果, 舌刺激では逆一致効果が生じた (実験3-5)。さらに, 矢印刺激であっても識別性を低下させることで標準一致効果が消失した (実験5)。これらの結果は, 視線ベクトル仮説と矛盾し, 二段階仮説を支持するものだった。 第4章では, 空間ストループ課題における反応時間分布を解析し, 二段階仮説を検証した。反応時間分布解析には, 干渉効果の増減を反応時間を関数に調べるヴィンセンタイズ (Vincentize) 法を用いた。矢印刺激の標準一致効果は反応時間の遅れに伴い減少した一方, 視線刺激の逆一致効果は反応の遅れに伴い増大した (実験6)。同様の結果は, 非社会的刺激の識別性を操作した実験 (実験7) および先行研究の再分析からも再現された。これらの結果は二段階仮説の時間特性と一致する。標準一致効果の減少と逆一致効果の増大は, それぞれ刺激駆動の反応活性とその時間的抑制を反映していると考えられる。 一連の研究結果は, 逆一致効果における二段階仮説を支持するものであった。刺激の社会的特性やそうした刺激に対する領域固有の社会的処理ではなく, 反応の活性と抑制および識別性によって一致効果が決定されることが示された。本研究から, 視線刺激と視線以外の刺激に共通する処理メカニズムが, 両者に対する方向処理の過程において重要な役割を果たすこと